初期研修医・総合診療医のための

小児科ファーストタッチ

¥4,400

●まずは何をすべきか。どのタイミングで小児科医に相談するか。専門医でないからこそ知ってほしいファーストタッチ
●くどいくらいの総論とシンプルな各論で、わかる“子どもの診かた”
 
「専門医ではないけど、小児科外来の初期対応くらいは身につけておきたい」そんな風に思ったことはありませんか?
本書は、見落としなく診療を進めるためのファーストタッチのポイントを、気鋭の小児科医が“くどい”ほど丁寧に解説します。「発熱と発疹がある場合の鑑別は?」「レントゲンは撮るべき?」「帰宅させても大丈夫? それとも入院?」「処方はどうしよう」「保護者への説明って難しい」…そんな現場の“困った!”を解消する、ポケットにあると安心な1冊です。

 

訂正情報

編著
岡本 光宏/著
発行日
2019年3月
判型
B6変型判
ページ数
428頁
商品コード
51766
ISBN
9784840751766
カテゴリ
目次

第1章 総論

1.発熱

2.咳嗽・鼻汁・喘鳴

3.腹痛

4.嘔吐・下痢

5.血便

6.頭痛

7.胸痛

8.発疹

9.けいれん

 

第2章 呼吸器

10.上気道炎

11.気管支炎・肺炎

12.細気管支炎

13.クループ

 

第3章 感染症

14.溶連菌感染症

15.アデノウイルス感染症

16.インフルエンザ

17.RSウイルス感染症

18.ヒトメタニューモウイルス感染症

19.手足口病・ヘルパンギーナ

20.ノロウイルス胃腸炎・ロタウイルス胃腸炎

21.突発性発疹

22.伝染性単核球症

23.マイコプラズマ感染症

24.単純ヘルペスウイルス感染症

25.おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)

26.水痘

27.百日咳

28.中耳炎

29.伝染性膿痂疹(とびひ)

30.肛門周囲膿瘍

31.化膿性リンパ節炎

 

第4章 消化器

32.ウイルス性胃腸炎

33.細菌性腸炎

34.腸重積症

35.過敏性腸症候群

36.便秘症

 

第5章 神経

37.無菌性髄膜炎

38.細菌性髄膜炎

39.熱性けいれん

40.けいれん重積

41.胃腸炎関連けいれん

42.無熱性けいれん

43.起立性調節障害

44.片頭痛・緊張型頭痛

 

第6章 腎・尿路系

45.尿路感染症

46.急性腎炎

47.ネフローゼ症候群

 

第7章 アレルギー

48.アナフィラキシー

49.食物アレルギー

50.気管支喘息発作・喘息性気管支炎

51.アトピー性皮膚炎・乳児脂漏性皮膚炎

52.多形滲出性紅斑

53.蕁麻疹

 

第8章 外因

54.熱傷

55.頭部打撲

56.異物誤飲

 

第9章 その他

57.川崎病

58.熱源不明熱

59.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

60.IgA血管炎

61.糖尿病性ケトアシドーシス

62.心筋炎

63.小児二次救命処置(PALS)

書評

ファーストタッチとバトンタッチ

笠井 正志先生(兵庫県立こども病院 感染症内科 部長)

 

「ファーストタッチ」というネーミングはとても深い。最初に診る医師の印象や診断は、次の医師(セカンドタッチ医)にとってはとてもパワフルである。かつて筆者が若手小児科上級医であった頃、ローテーション中の初期研修医から「かぜにしては、呼吸が変です」と相談され、見た目の状態は割とよかった心筋炎の乳児症例を思い出す。また、長じて感染症専門医として、あとから診る医師(セカンドタッチ/サードタッチ医)になってからも、初診医(コンサルトしてくださる医師)の診療レベルが極めて重要であることを実感している。

子どもにとっては、ひょっとしたら親・親戚以外でファーストタッチする大人が医療者かもしれない。初めて子どもを病院に連れて行く時、親御さんも医療の世界へファーストタッチすることとなる。その時に信頼できる大人や医療者に会えるかどうかで、その後の他者への信頼感や子育てへの安心感が変わってくる。小児医療へのファーストタッチは未来を変えることができる。

 

医療のバトンタッチにも教育のバトンタッチにも

本書は、文章も構成も美しく、丁寧にわかりやすく記載されているのに、漏れがない。小児医療に慣れていない人にも理解できる大変読者フレンドリーな実践本である。この本さえあれば、非小児科医であっても今日からすぐに外来や病棟で診られると言っても過言ではない。また、2020年度から臨床研修制度が変更され、小児科が選択から「必修」になる。すべての医師の小児科へのファーストタッチ。何事も最初が大事で、小児科の印象を決める重要な教育機会になる。小児科嫌いの臨床医を出さないためにも、病院小児科医は初期研修医への教え方を、ぜひ本書で学び直してほしい。

医療は「バトンタッチ」である。ファースト(外来、救急)で診たあと、セカンド(次の日、上級医、入院、専門外来など)、そしてサード(高次医療、専門医療など)へとつながれていく。さあ、小児医療の最初のバトンを持つ初期研修医諸君、総合診療医の先生方、『ファーストタッチ』を持って子どもにファーストタッチし、命のバトンをつなごう!

 

 

堀向 健太先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 小児科)

 

実は著者の岡本先生を、ずっと前から存じ上げていた。

直接の面識があったわけではない。2017年に岡本先生が開始されたブログがたまたま目に留まったのだ。その文章と伝えかたの巧みさに唸ってしまった。

これは『一流』の小児科医だ。

私もブログを細々と更新しているが小心者の私は名前を公開していない。一方で近影と名前をしっかり公表している岡本先生に強い志を感じた。

私は岡本先生のファンになった。

そこで、岡本先生が本を出版されるということで、早々と予約をしていた(ということでわが家には『小児科ファーストタッチ』は2冊ある)。それが書評を依頼されて少々戸惑っている。観客の一人としてワクワク閲覧していたのに舞台に押し上げられてしまった。そこで発売日前にいただいた、できたてホヤホヤの本をホクホクした気持ちで通読した。

またもや、唸ってしまった。これは『超一流』の小児科医だ。こんな難しいテーマを書ききってしまうとは。

小児科領域の疾患は星の数ほどある。そのため、一人で小児科の教科書を書くのは至難の業だ。それを初期研修医や総合診療医にこそ診てほしい範囲に絞り、さらに重要度のランク付けをし、書きすぎない程度に詳細かつ簡潔に説明し(これが難しい)、なんなら小児科医が隠しもっているアドバンスドな知識を散りばめてある。

これは、「前線ですべての子どもの疾患をみている『超一流』の小児科医」にしかできない。

サブスペシャリティに軸足を移してしまうとこんな本は書けなくなってくる。どうしても知識に濃淡が出てしまい手薄な領域ができてしまうのだ。少なくとも私にはちょっと真似できない。そして通読していて一貫した内容ですごく読みやすい。よい本が出てきたなあと感心しきりである。

さて、私はひとりのファンに戻る。

そしてこの本を手にとられた方々も、読み終えたときには岡本先生のファンになっていることだろう。ただし、ファン一号は譲らない。

 

 

吉川 徳茂先生(和歌山県立医科大学 特別顧問・名誉教授/同 附属病院臨床研究センター長)

 

岡本光宏君が小児科専門医になった直後の4年前、私は彼を2年間指導した。彼の父も小児科医で、30年前に腎生検の指導をした。

私は岡本君にリサーチマインドを教えた。当時の彼はまだ論文らしい論文を書いたことがない医師だった。しかし日常臨床に疑問を感じていないわけではなく、多くのクリニカルクエスチョンをもっていた。私はそれをリサーチクエスチョンへもっていく方法を指導した。また、実際に彼とともに論文を書き、臨床研究の面白さを彼に伝えた。その後、岡本君は兵庫県立柏原病院に移動した。臨床と研究に打ち込んでいるのだろうと思っていたが、久々に連絡がきたと思えば書評の依頼である。正直、驚いた。

さて肝心の本だが、まさに岡本君らしさを感じさせる内容だ。彼は人一倍働き、かつ勉強熱心だった。ネルソン小児科学を担ぎながら、外来からベッドサイドまで患者を求めて走り回っていた彼の姿が思い出される。本書の内容はネルソン小児科学やコクランレビュー、国内外のガイドラインの記載に加え、彼の臨床経験がうまくミックスされ、読みやすい内容となっている。

小児科医とは子どもの総合医である。本書の内容は呼吸器、消化器、神経、腎、アレルギーなどのさまざまな臓器別内科疾患に加え、熱傷や異物誤飲、頭部打撲などの子どもに多い外因疾患までも含む。この多岐にわたる疾患すべてを1人の小児科医が書いたという事実は、まさに小児科医が子どもの総合医であることを証明しているといえるだろう。

 

 

見坂 恒明先生(神戸大学大学院医学研究科 地域医療支援学部門 特命教授/兵庫県立丹波医療センター地域医療教育センター長)

 

“(兵庫)県立柏原病院の小児科を守る会”といえば、地域医療関連ではとても有名な住民運動ですが、卒後1ケタの年代の先生には「??」かもしれません。むしろ、基本的臨床能力評価試験での全国上位成績や「医学生・研修医の日本内科学会ことはじめ」で優秀演題賞を毎年受賞、多数の総合診療専門医制度の専攻医が在籍など、医学教育が充実した病院といったほうがピンとくるでしょう。そんな柏原病院は、2019年7月に兵庫県立丹波医療センターとして新しく生まれ変わりました。

著者の岡本先生は柏原病院で小児科の教育を中心的に担う医師の一人です。本書では、ブログでもおなじみの岡本節が「序」や各項目途中のNoteで健在です。「初期研修医・総合診療医のための小児科ファーストタッチ」の題名のとおり、小児科以外の医師・コメディカルがどのように子どもを診ればよいのか、どういうときに小児科医にコンサルトすべきか、患児の保護者へどのように説明すべきかなど、初期研修医や総合診療医が小児科外来・小児救急外来で困り、また知りたいTipsがふんだんに記載されています。

総論では症候別にどのような疾患が想定されるかが記載されており、初期対応のハンドブックとして役立ちます。病名別の項では、検査項目や帰宅の基準、薬剤投与量が具体的に記載されており、大変実践的です。全体をとおして文献引用が非常に豊富で、単なるexperience based practiceではなく、エビデンスに基づいた記載であることも非小児科医にとっては非常にありがたいです。ポケットサイズの書籍であり、非小児科医が小児診療を行うときに是非とも手元に置いておきたい書籍です。

 

 

石川 洋一先生(明治薬科大学臨床薬学部門小児医薬品評価学 教授/国立成育医療研究センター臨床研究センター 客員研究員)

 

ああ、本書は現場で小児に出会う薬剤師にピッタリであると感じた。現場の薬剤師が医薬品に関する知識と経験とがありながら、現場での患児と家族への説明、疑義照会での問題点の説明のときに不足するもの、それは処方が選択される前の臨床情報である。

患児はどんなことからどのような疾患が疑われ、どのような状況からその医薬品が選択されたのか。この患児には医薬品について、また医薬品以外のどのようなことについて注意を払い、そして説明すべきか。ファーストタッチを学ぶための本書にはそれが書かれている。小児が薬局に来たとき、クリニックに受診させるべきかを考える参考にもなる。

総論の項には「発熱、咳嗽・鼻汁・喘鳴、腹痛、嘔吐・下痢、発疹、けいれん」など、親との相談にも必須の内容が並ぶ。内容に入ると「処方例」から「処方の解説」があり、これが理解しやすいのに加え、その後に続く「保護者への説明例」が秀逸である。これらはぜひとも知っておきたい内容である。発疹や皮膚症状、川崎病などでは写真も使われ、文章で説明されてもわからない薬剤師にとってはありがたい。おむつかぶれの解説も、なかなか他書では説明を見ない。

医療施設では病棟薬剤師、地域医療ではかかりつけ薬剤師の活動に期待が高まるなか、薬剤師は成人だけでなく小児までの相談に広く対応していきたい。医師と薬剤師とが共通のイメージをもって患者と対応していると、患者は安心感を覚えるが、医師と薬剤師の考えが異なると患者は不安を覚える。本書には患者と医師を知るための知識がそろっている。

本書との出会いによって少しでも患者と医師の思いを学ぶことが出来れば幸いである。

序文

医療崩壊から学んだ教育改革

兵庫県立柏原病院は、医師不足による医療崩壊を経験した地方基幹病院です。医師不足を解消すべく、柏原病院が2013年に打ち出した施策は教育改革でした。優れた医学教育を提供し続けることで、初期研修医にとって魅力のある病院にしようと取り組みました。

まず、初期研修医がどのような教育を受けたいのかを調査しました。柏原病院では、初期研修医と指導医が月に1回ミーティングをし、指導医が教えたいこと、初期研修医が学びたいことが一致するように努力しています。そのミーティングの結果、初期研修医の多くが「外来に子どもが来たときに、一人で対応できるようになりたい」と述べました。

なるほど、それまでの初期研修医に対する小児科教育は「入院患者の担当医として勉強すること」に偏っていました。入院患者は外来患者とは違って、カンファレンスでゆっくり話し合うことができます。教科書や論文を読んで、治療方針を熟考することもできます。問題が起きたときもその都度対応できます。少なくても私は、初期研修医はまず病棟の入院患者から勉強するのが適切だと考えていましたし、私自身もそのような教育を受けてきました。将来小児科医になりたいと考えている初期研修医にとって、この「まずは病棟から」という教育方針は適切かもしれません。病棟診療で経験を積み、ある程度成長して小児科医となってから外来診療を学べばよいでしょう。

ですが、多くの初期研修医は小児科医にはなりません。彼らは内科医・外科医となることを目指しつつ、2年間のローテーション研修の一つとして小児科を選んでいるだけです。小児科医を目指す初期研修医と、ローテーション研修の一つとして小児科にやってきた初期研修医とでは異なった教育がなされるべきです。小児科医にならない初期研修医にとって、小児科研修は長い医師人生のなかで唯一子どもに特化した教育を受けられる期間なのです。


非小児科医にこそ学んでほしい小児科ファーストタッチ

将来小児科医になるわけではないけれど、それでも子どもの初期対応くらいは自信をもってできるようになりたい。初期研修医の想いが、柏原病院の研修医ミーティングで明らかになりました。初期研修医は「外来に来た子どもに、まずは何をするべきなのか」というテーマに強い関心をもっています。研修医ミーティングを経て、彼らに必要な教育は入院患者に対する専門的な治療よりも、小児科外来や救急外来における「子どもへのファーストタッチ」であると私は感じるようになりました。最新のエビデンスに基づいた専門的な治療は、小児科専門医が引き継いでから行えばよいのです。

ファーストタッチというのは、どのような病気を考え、どのような検査と処置を計画し、どうなれば帰宅、どうなれば入院になるかということを頭にしっかり思い浮かべながら、問診と診察と検査をすることです。鑑別疾患を広く考え、見落としなく診療を進めていくことが大切です。そのため、本書では総論をできるだけ詳しく書きました。そして、小児科学の入門書としてわかりやすくなるように、大切なことは何度も繰り返し書きました。小児科学をある程度知っている人には、くどいと感じるかもしれません。ですが、このくどさこそ教育であると思っています。

いっぽう、小児科研修の後半になって、ある程度診断能力が向上してきたら、鑑別疾患はスムーズに立てられるようになるでしょう。そういう場合は、本書の各論(第2章以降)を外来診療のリソースとして使用してください。各論はポケットリファレンスとして機能するように、シンプルにまとめました。

入院を要する疾患の治療については簡略に記述しました。これは、入院後の治療をある程度知っておくことで、外来での対応をスムーズに行うことを目指したためです。入院後の詳細な管理のリソースとして、本書は適切ではありません。本書はあくまで「外来に来た小児に対してどのようなファーストタッチを行い、どのタイミングで小児科専門医に相談するか」を目的に書かれています。


「子どもは小児科医が診る」という時代は続かない

初期研修医が小児科を効率よく研修するためのリソースとして本書は書かれました。これは、初期研修医に優れた医学教育を提供することで、兵庫県立柏原病院に初期研修医が集まり、やがて成長し、その後もきっと病院を支え続けてくれるだろうという計画の中の一つです。教育の成果は実を結び、2018年の基本的臨床能力評価試験において、当院の2年目研修医は391病院中6位という成績でした。柏原病院の研修医数、医師数はともに増加しており、医師不足問題は解決に向かっています。

小児科医が偏在・不足するなか、子どもへのファーストタッチが小児科医ではないという地域は増えていくと思います。自信をもって子どもへのファーストタッチを行える医師が増えてくれると、私たち小児科医の仕事も楽になります。初期研修医を教育するのは、彼らのためだけではありません。彼らを適切に教育することで、回り回って小児科医である私たちの負担も楽になるはずです。

小児科専門医ではない医師が、自信をもって子どものファーストタッチができる。くどいくらいに教育的な総論と、シンプルな各論を併せもった本書がその一助となることを願います。本書をとおして、子どもを診ることができる医師になりませんか?

 

2019年2月

兵庫県立柏原病院小児科 医長

岡本 光宏