病態がわかると服薬指導が変わる!
プロローグ 薬局薬剤師としての思考過程を磨くために
Case1~20 病態の理解から服薬指導までしっかり解説
1.がん患者にパンビタン…単なるビタミン補給?
2.乳がん治療薬とともに処方されたデノタスチュアブル配合錠って?
3.若年女性にコルヒチンが処方…連日服用!?
4.抗がん薬服用中の患者にレボフロキサシンを処方…?
5.食道アカラシアの患者――ニフェジピンとニトログリセリンを処方…?
6.歯科治療中の授乳婦――副鼻腔炎にガレノキサシンを処方?
7.大腸がん患者に対してなぜ牛車腎気丸を処方?
8.抗菌薬が2剤処方…同時服用と説明して大丈夫?
9.歯科からアモキシシリン250mgを8Cap…1回分で処方?
10.メサラジンの錠剤から腸溶錠に変更された潰瘍性大腸炎患者…なぜ?
11.産婦人科からニフェジピン徐放錠が処方…妊娠高血圧?
12.尿管結石の患者に食事からカルシウム補給の指示?
13.多剤併用のCKD患者――処方から注意すべきポイントは?
14.バセドウ病にカリウム製剤…その理由と注意点は?
15.肝障害の患者にカナマイシンを処方…?
16.婦人科から月経不順でカベルゴリンが処方…?
17.u-Alb値、Alb/Cre比って? シルニジピンが追加された理由は?
18.婦人科から男性に処方…受診理由、処方目的は?
19.多発性嚢胞腎の患者にカンデサルタンのみ処方…?
20.亜鉛欠乏で酢酸亜鉛が処方…説明の注意点は?
Case21~30 コンパクトにポイントを押さえて解説
21.アシクロビル+シメチジン+葛根湯=単純疱疹のウイルスに対抗?
22.不妊治療のために抗がん薬を処方…?
23.デキサメタゾンは吐き気止めとして…?
24.鉄剤の併用注意、どこまで指導する?
25.精神科からメコバラミンが処方…?
26.関節痛を訴える患者になぜシメチジン?
27.3歳の子どもにレボドパが処方…パーキンソン病の薬で検査って?
28.生理食塩液を点鼻で処方!?
29.抗パーキンソン病薬のトリヘキシフェニジルが処方される痙性斜頸って?
30.リウマチ治療にビオチン、どんな効果があるの?
山本 信夫先生(公益社団法人日本薬剤師会 会長)
薬機法の改正に伴って、薬剤師法も一部改正が予定されており、2019年秋に開催される臨時国会において、新たな概念に基づく薬剤師・薬局の業務を規定する制度の全貌が明らかになる。薬剤師の業務は、近年急速にその質を変化させており、薬物治療への積極的な関わりが期待されていることは、読者の皆様も日々肌で感じておられることと思う。
患者を個別化して、その患者に最適の薬物治療が行われるよう、薬学的な視点から処方の内容について検討すると同時に、服薬の過程のなかで得られた患者の状態などに関する記録を比較・検討しながら、正確な調剤と同時に薬学的視点に立った適切な情報提供と指導を行うことが重要であり、薬剤師には服薬期間中の患者の状況について把握し、一元的な服薬管理が求められていると言っても過言ではない。
患者や住民、あるいは医師をはじめとする医療関係職種から期待される役割を、患者からの聞き取りとあわせて、処方せんからさまざまな情報を読み取り、必要に応じて処方医への処方提案など、より効果的で安全・安心な薬物治療を目指すことが、薬剤師に求められる大きな役割と考えられる。
本書は、薬剤師が日々現場で直面するさまざまな課題のなかでも、当該患者に最適な医療を提供するうえで最も基本となる処方箋をもとに、段階を追って処方内容と患者情報から病態を推論し、そこに至る考え方について解説し、薬剤師の目から見た患者への処方薬に関する服薬指導の要点や、「医師がなぜこの処方をしたのか」について考察を加えている。
さらに医師の立場から、処方それ自体と、処方意図との関連が、現場で直面することの多い事例をあげながらわかりやすく解説されている。これからの薬剤師業務を的確に進めるうえで、ぜひ手元に置いておきたい書籍の一つである。
川上 純一先生(浜松医科大学医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長)
「この処方箋は何だろう?」。薬剤師であれば誰もが経験したことのある場面である。
本来の薬物治療とは、患者さんの訴えや問題点が最初にあり、それに対して適切な診断に基づいて治療目的が設定され、その目的を達成するための手段の一つである。したがって、処方内容から病態や投薬目的を類推することは本来とは逆の流れになる。しかし、最初の診察から治療後のフォローまでを自身のなかで完結できる医師とは異なり、薬剤師の場合は多様な対物・対情報・対人業務を役割分担したり、ある時点だけで患者に関わったりせざるをえないこともある。そのため冒頭のような疑問をもつわけである。
本書は、そのような薬剤師としての処方箋への疑問をどう解決するのか、処方内容や患者情報から病態生理や処方医の意図・思考過程をどう理解するのかについて、30症例を用いて示されている。そして、患者さんへの対応法、岸田直樹先生からの実践的アドバイスや解説なども記されている。書籍の構成としても、症例の難易度や疾患・薬剤からの索引もあり、読者が関心のあるページから読むことができる。
また、本書のもとになったものは、宇高伸宜先生が保険薬局で受けた処方箋から疑問をもった内容について、薬局薬剤師の先生方で調べて掘り下げて取りまとめ、継続的に配信されていた社内情報紙とのことである。ここにもたいへん重要なポイントがある。「気づいた疑問は自ら調べること」、「情報はインプットだけでなくアウトプットを続けること」が大人の学びには必要だからである。
本書は、薬局薬剤師はもちろんのこと、病院・診療所薬剤師や薬学教員や薬学生にも手にしてほしい。それは明日からの薬剤師業務や臨床思考が変わることを期待できるからである。
亀井 美和子先生(日本大学薬学部薬事管理学研究室 教授)
昔から文庫本を最後まで一気に読むタイプの私ですが、薬剤師向けの書籍となると、途切れ途切れに、必要なところだけに目を通して終わり、という読み方をしていました。しかし、この書籍は開いてから最後まで途切れることなく一気に読んでしまいました。その理由は、「へえ」「そうなんだ」「これはどうして?」といった気持ちのまま読み進めたからです。「面白く読めて、役に立つ」というのが率直な感想です。
医療現場の日常には、教科書では解決できない疑問が山積しています。とりわけ薬局では、処方箋と薬歴の情報だけでは疑問が解消しないことがよく起こりますが、この書籍を読んでいくと、そういった疑問への向き合い方がわかってきます。まさに薬局薬剤師としての思考過程が磨かれていく感覚です。処方箋を受け取り、この患者さんにこの薬剤が「なぜ処方されているのか?」となったときに、それを解決するための病態と薬剤の知識が解説されており、さらに、このような患者さんへの対応方法が服薬指導の対話形式で示されています。
書籍には30の事例があげられていますが、なかには自分の経験と重なる事例があるかもしれません。一方、これまで経験したことがない事例も多く含まれているのではないかと思います。しかし、自分はこういう事例に遭遇することはないと断言できる薬剤師はいないはずです。この30の事例を通して思考過程を磨くことで、ここにある事例以外の「なぜ」に遭遇したときにも力が発揮できます。
薬学教育でこの思考を身につける教育が十分行われると、薬剤師になってから戸惑うことが少なくなるのではないかとも思います。薬剤師と薬学生の両者に勧めたい書籍です。
私は、北海道札幌市に本社を置く株式会社サンクール あしたば薬局グループに所属する、ごく一般的な調剤薬局勤務の薬剤師です。共著である医師・岸田直樹先生のお力添えがあり、本書を出版させていただく運びとなりました。
経歴として、神経内科単科の病院に6年勤務した後、現グループ薬局に移りました。数年の経験後、大学病院前に新規出店する調剤薬局の管理者を任されましたが、多くの疾患や病態を理解できていなかった私は、初回問診票に記載された疾患名や、処方内容、処方意図などに関しても知識のなさを痛感しました。
そこで、当時一緒に働いていた同僚の薬剤師たちとともに、受けた処方箋の薬や疾患について調べてまとめ、互いに勉強しあうことにしました。また、それを医薬品情報(DI)の社内情報紙として毎月グループ全店に配信することで、「忙しいから作れなかった」という逃げ道を断ちました。当然、業務中には作業を完結できないので、プライベートの時間も平日はできるだけ社内DI 情報紙の作成に充てるようにし、続けるのがつらいときもありましたが、以前はわからなかった症例が少しでも理解できるようになっている自分を実感でき、継続することの必要性を感じました。
本書はこの社内DI情報紙をベースに構成されています。各ケースの表題は、薬剤師が処方箋を受けた際に思い浮かべる最初の“疑問”となっています。そして処方箋の内容と、患者さんから聞き取りした内容や問診票・アンケートの情報から一つの答えを導き、実際に私が感じた感想やその後の関わり方を述べています。この部分だけでも各ケースの概要を把握していただけると思いますが、“疑問”を解決するためにもっと情報を掘り下げ、処方された薬や疾患について順を追って解説した後、調剤薬局での患者対応の一例を会話形式で記載し、最後に岸田先生からコメントをいただいています。これは医師の視点や考えに触れることのできる貴重な機会と思います。また、必要に応じて「One More Lecture」として応用的な解説も加えています。
本書で解説しているケースは大学病院前の調剤薬局で受けた処方箋であり、他の薬局ではそれほど多く遭遇する症例ではないかもしれません。ですが、これからの薬剤師のあり方を考えた際に、より臨床的な知識を増やし、どのような疑問をもち、どのように解決していくか? という思考過程が非常に重要で、これはただ参考書を読むだけでは身につきにくく、他者の思考過程を知ることで得られるものだと思います。本書ではその思考過程を順序立てて解説しました。自分自身の“薬剤師力”アップのために、あるいは新人教育のツールや症例検討会の材料として、研修担当の方にも役立てていただける一冊ではないかと考えております。
一人でも多くの患者さんから「薬剤師がいてよかった」と言ってもらえる、そのために本書が少しでもお役に立てれば幸いです。
株式会社サンクール あしたば薬局グループ
宇高 伸宜
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