Ⅰ 病院経営分析の入り口
1 経営と経営分析
2 病院における経営分析
3 比較分析するための準備
Ⅱ 病院における経営分析のための基礎知識
1 病院経営分析の基本
2 病院の会計の基本と財務諸表の構造
3 経営分析に必要となる医事統計データ等
4 開設主体全体の経営分析
Ⅲ 病院の経営分析
1 病院における一般的な経営指標の特徴
2 「病院経営管理指標」のポイント
3 資金計画
4 指標の活用
コラム
資料
成り立ちについて
この本の始まりは、今から20年前の平成15(2003)年にシリーズ本の1冊目として刊行した「医療・介護施設のための経営分析入門(病院編)」でありました。その後、図らずも好評をいただき平成20(2008)年からは単行本『病院のための経営分析入門』として現在に至っています。
平成28(2016)年には、病院経営・財務・会計に精通された新進気鋭の公認会計士・税理士西田大介氏に共著をお願いしています。
西田会計士は、経営指導、財務会計、税務、そして平成30(2018)年から法定化された医療法人監査に至るまで医療・病院領域に広く深く関わりを持たれ、この分野の実務家として余人を持って代え難き逸材です。
今回の本書の改訂においても、そのほとんどを担当いただきました。来年、古希を迎える身としては本書の執筆後継者が確定したものと大変うれしく思っています。
執筆への思いについて
平成15年の最初の「まえがき」に5つの項目を立てて執筆の思いを申し上げました。
①いよいよ競争と淘汰の始まり、②見たいところだけ見るも良し、③電卓とメモ用紙はより効果的、④数字を読んでください、⑤常に経営全体を見るです。時代が少し変わり、道具は電卓とメモではなくPCとDXになったかもしれしませんが本質のところは陳腐化していないと確信しています。
当時は、少し先走っていた表現、病院における競争と淘汰は今現実のものとなっており、これから本格化します。そのような状況下において経営を数字で認識・分析・評価することは極めて重要で、その際の心得は木も見て森も見る、すなわち、常に部分だけでなく全体も必ず見る意識を持つ、そして、そのための眼を持つには、意識と知識と経験が不可欠です。
本書は、知識を学んでいただくための病院における財務・会計領域の入門書ですが、知識を得るための学習によって一番大切な意識も育んでいただけるように構成したつもりです。
少子・人口急減・超高齢化に突入して、わが国の医療政策は入院・外来という整理から入院医療、外来医療、在宅医療へ確実に変化することになります。何が変わっても不思議ではない時代に突入します。
おわりに、株式会社じほう出版局安達さやか氏には20年に及びお付き合いいただき心より感謝いたします。ありがとうございました。
令和5年6月
公認会計士 石井 孝宜
第2版の発行された平成28(2016)年2月は、平成26(2014)年の第6次医療法改正により導入された「地域医療構想」の実現のための「病床機能報告制度」や「地域医療構想調整会議」などの在り方に関する具体的な議論が行われていた時期でした。「地域医療構想」策定当初は134.7万床の病床を2025年に115~119万床程度と20万床程度減らすことを目指すべきとした推計がなされる一方で、令和2(2020)年1月からの新型コロナウイルス感染症への対応においては、必ずしもすべての感染患者を受け入れることができないといった状況が生まれるなど、現在わが国において整備すべき病床については数と機能の両面から改めて考えさせられる状況になっています。
また、平成27(2015)年度末に1、033兆円(GDP比191%)であった国および地方の長期債務残高は令和4(2022)年度末には1、257 兆円(GDP 比224%)が見込まれるなか、国際情勢や急激な出生数の減少への対応として防衛費予算や少子化対策予算の増額が避けられない状況です。
したがって、今後の病院運営においては必ずしも財政的な支援が十分に受けられない中でさまざまな変化が求められる可能性が高いと言わざるを得ません。
このような認識のもと、第3版では基本的なフレームワークに変更はありませんが、病院を取り巻く環境については直近の状況を反映させるための追記や書き直しを行うとともに、この時期に改めて現在の医療制度改革の基となる、平成20(2008)年の「社会保障国民会議」の議論や平成24(2012)年から25(2013)年にかけての「社会保障制度改革国民会議」の議論を振り返ることも有用であると考え、それぞれの報告書について触れています。
そして、組織を変化させる際に自らが持つ経営資源(人・物・金)を十分に理解せずにやみくもに変化させてしまうと、対応可能なレベルを大きく超えてしまい、逆に病院の存続そのものを脅かすことにもなることから、経営分析の基礎知識としての財務諸表に関して、「金」の面での対応可能なレベルを把握するために有用である「フリー・キャッシュ・フロー」の説明を追加しています。
病院の経営分析に関しては、厚生労働省によって毎年公表されている「病院経営管理指標」に基づき、取り上げる指標自体に変わりはありませんが、重要な指標については平成17(2005)年度以降5年との推移を、一般病院について開設主体別に掲載するとともに医療法人が開設主体となっている病院については、さらに病院種類別に掲載し説明を加えています。普段の実務では、前年との比較や長くても3年から5年程度の推移を見ることが多いと思いますが、今後2040年を視野に入れる、つまり約20年先を想定する機会が増えると考え、逆に過去20年を振り返ることに意味があると思い、この機会に平成17年度からの推移を追ってみました。また、巻末資料として令和元年度および令和2年度の病院経営管理指標に関する調査研究結果を掲載していますので、そちらも参考にしてください。
医療制度改革は今後も継続し、地域の医療機関の外来機能の明確化・連携に向けた「外来機能報告制度」が令和4 年度から開始され、さらに、この5 月に成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(いわゆる「全世代社会保障法」)により、今後、「かかりつけ医機能」についても報告制度が運用されることから、病院経営におけるデータ活用の重要性は増しています。また、平成30(2018)年4月期から医療法人に導入された法定監査や「全世代社会保障法」により導入される医療法人等の経営情報のデータベース制度など、医療法人には財務情報の透明性確保がより一層求められています。つまり、病院経営者にも適切な財務諸表の作成と開示に関する知識が求められる時代になってきているのです。
このような状況において本書が病院などの医療施設の経営に直接かかわり日々苦労している経営者、管理者の方々に多少なりともお役に立てば幸いです。最後になりますが、第3版の出版にあたり、適切なご指導をいただきました会計士の石井孝宜先生と忍耐強くお待ちいただくとともに適切なご助言をいただきました株式会社じほう出版局の安達さやか氏に、厚く御礼を申し上げます。
令和5年6月
公認会計士 西田 大介
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