患者本位で考える
「患者に選ばれる病院づくり」-その実践
■プロローグ
■「病医院建築」は、今
■安全と安心への工夫
■「災害時」に機能する病院
■変化への対応
■経済性と「ロングライフ」
■プランニングの基本的な考え方と工夫
■自然の「治癒環境」
■外来部門の計画
■(中央)診療部門の計画
■病棟の計画
■病室の計画
■管理部門の計画
■供給部門の計画
■その他の部門の計画
■建築・インテリアデザインと造作・家具
■工事費の削減に向けて
■プロジェクトの進め方
エピローグ あなたの病院・クリニックをどうしますか?
掲載事例施設・写真一覧
【推薦にあたって】
畏友。病院や福祉施設の設計者で、この分野のトップランナーとして常に病院づくりや福祉建築を引っ張ってこられた久保田秀男氏。この度その集大成とも言うべき「患者本位で考える 病院・クリニックの設計」が発刊された。Part Ⅰとなる「患者に選ばれる病院づくり」は、私が勤務する病院の設計で初めて知り合った頃で、彼の凄さの一部分しか知らないのに推薦文を書いてしまった。
あれから20年。わが国の病院や社会保障の環境は大きく変化した。拡大路線一辺倒から減床を含むダウンサイジング、急性期中心からリハビリテーションを含む回復期病床の重要性の再認識、居住性や快適性が求められる医療療養病床などが地域包括医療・ケアの時代には最も重要な視点となってきた。まさに「時々入院、ほぼ在宅」なのである。ITの導入による電子カルテやPACSの進化、オンライン診療のためのSEルームや放射線診断部門も大きく変化している。さらに阪神・淡路や東日本、熊本の三つの大きな地震災害の経験から安心安全な建築やライフラインの確保、備蓄体制なども重要性を増し、第7次医療計画では病院のBCPも採り入れられた。
また、チーム医療のためのスタッフステーションや研究室、院内図書室や講堂、あるいはダヴィンチの実習室や内視鏡施術の訓練室を備える病院も出現している。女性医師や男性看護師の増加、臨床工学士やソーシャルワーカー、言語療法士、さらには診療情報管理士や医療事務作業補助者等の台頭。在宅期間短縮に伴う外来機能の重装備化(外来化学療法を含む)。DPC対策としての入退院調整や地域医療連携の重要度増加。日帰り手術。この本では、これらに対してほとんど完璧に対応する設計であり、「患者によし、スタッフによし、コストよし」の三方一両得の考えが前巻と同様に貫かれている。
先年、広島県廿日市市の病院を核とした駅前開発の講演会に行った時、久し振りに著者に出会った。彼は病院建築から街づくりに進化し、大きくなっていたのである。彼を大きくしたのは六甲アイランドでの被災経験、そして二度に亘る入院経験だと勝手に判じている。彼の自宅六甲アイランドは超近代的な所だが、現在、活動地として居住している広島の奥様の実家(日野家)は8棟が有形登録文化財だそうで、その改築や庭掃除などを通じて患者のアメニティに対する思いやエコロジー的感覚も研ぎ澄まされているのであろう。余談ではあるが、今秋の紅葉の頃に一般公開だそうである。是非訪れられることをお勧めしたい。
医療から見て良い看護師が患者から見るとそうでもないのと同様に、病院も入院してみると設計者とは異なった視点で見えてくるものがある。また、私が私淑していた故景山直樹先生は、病院は三つ建てないと一流の院長ではないとおっしゃっておられた。確かにオープンすると直ぐにしまったという点が見つかるからである。この本は17章からなるが項目は100項ある。どの項も含蓄に富み、自分が興味のある項だけ読んでみるのもよい。また、医学ではEBM(Evidence Based Medicine)が今や常識であるが、病院建築でもEBD(Evidence Based Design)が必須であるというのが著者の考えであることがよく理解できる。私などはExperience Basedの方であるが…。
本書は病院の運営や経営を熟知精通している者にしか著せない珠玉の病院建築書であり、どの箇所を読んでも目から鱗のことが多い。おそらく10年後にはロボットやAIが病院でかなりの部分を担っていると思われ、患者も職員も外国人が増えていると予想される。その時代に著者が次の書籍をどう描くのか、長生きして読んでみたいものである。
2018年7月
全国自治体病院協議会 名誉会長 邉見 公雄
著者が病院の設計に関わり始めた45年前は、旧住友病院(大阪1960年・1988年増築)などが病院建築のひな形としてあり、それを教科書のようにして学んだものです。そして、その後の医療環境やライフスタイルなどの激しい変化の中で、その住友病院も2000年に移転改築が完了し、その後の17年間を含めた、その間は、絶えず反省の連続で、これで良いか、これで本当に良かったのかと思い続けた45年間でした。そしてそれは生涯終わることはないでしょう。
そして今、超高齢社会と人口減社会を迎えて、新たな保健・医療・福祉への取り組みが進む中で、IT革命とゲノム革命による大きな変化を伴う次世代の病医院が、確実に変わろうとしている実感があります。しかし、その中には、次のような危惧があります。
その一つは、当たり前のことですが、元気でないと病院に行けないようなことは本来おかしいという、弱者のための建築や運営のあり方への問いかけです。そして二つ目は、医療そのものや看護単位などの医療体制とその仕組みの、今後の劇的な変化に対する検討と対応が不十分なままで、目先の議論に終始しているのではないか、そして、急性期と慢性期、外来のあり方など、それぞれの病院の役割によって当然異なるべき病院建築を一つの言葉で語ってしまう傾向にあることです。そして三つ目は、建築が時代による変化を受けとめながら、30年、50年と、その役割を果たすには、今の病院建築のつくり方があまりにも固定的過ぎることです。
昨今の病院は、ホテルのように美しく素敵な建築になりましたが、ある意味での、足し算の日本的なやり方での、それが唯一の病院建築の目標であるかのような、そして、今の「患者サービス」や「病医院建築」の設計への画一的な取り組みに対する問題提起であります。
本書は、病医院建築の設計者としてのこれまでの経験と反省から、そして、二度の入院を経験した一人の患者や家族としての率直な想いと願いを、病医院を管理される方やスタッフの方々には、病医院をこうしていただきたい、また、設計者は日頃からこんなことを考えていて、提案にはこんな意味が含まれていることを、そして、イメージや環境、運営に「建築の力」が関係していることを知っておいていただきたい、設計段階で話題になることを、そして、設計者をはじめとする病院の企画や建設に携われる方々には、建設に対する責任ある立場として、病医院をこうしていただきたいという問題提起と願いを、事例を紹介しながらまとめたものです。
日頃から新しい病院ができると、患者として訪れて設計の参考にしていることから、設計者と患者の両方の立場から、次世代のために、まとめ、お伝えしておきたい、という思いからによります。
また、病医院の運営者やスタッフの方々、そして設計を含む研究者や技術者の方々には、異論や反論がある部分も多くあると思います。しかし、その議論が生まれるところに、そして、議論がかみ合わないところに、今の課題があり、その議論を経ることにより、その次の姿が見えてくるのではないか、と考えています。
本書をまとめるにあたりましては、これまでともに病院の設計をしてきた先輩同僚にお礼申し上げます。また、文中には病医院設計を通じて、これまでお世話になりご示唆をいただいた方々の実名や病医院の名前が登場しますが、それは、その方々との出会いから、この本ができていることによります。しかし、その方々は、たまたま本の内容に沿って登場していただいたことであり、そのほかにもご指導ご示唆をいただいた方が数多くあることを申し添え、この場を借りて御礼申し上げます。
なお、「病院」はその規模や担う役割によって、そして「クリニック」ともあり様が異なるところもありますが、基本的な考え方に共通することが多いことから、その両方を取り上げています。
2018年7月
久保田 秀男
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