はじめに
2016年4月にとある薬局の新入社員研修で「みなさんの入社された2016年という年は『薬局業界にとって大きな転換点となったのはこの年だった』と、何年か経って振り返った時にそう言われる年になるでしょう!」と話をしたことを今でも明確に覚えている。これは、2016年度調剤報酬改定を受けてのことで、この年の改定で調剤報酬制度の改定は大きな舵を切ったと考えていたからだ。
詳細は本文で記述するが、2016年度調剤報酬改定は、2015年10月に出された「患者のための薬局ビジョン」を踏まえて「かかりつけ薬剤師指導料・包括管理料」を始めとした「かかりつけ機能に関わる基本的業務」という考え方が点数に反映されている。もちろんこれまでにもあった点数も含まれているわけだが、これらは2015年3月の規制改革会議の「医薬分業はコストに見合ったメリットを患者に与えているか?」という問題提起への回答の一つとして出されたものあり、これがうまくいかないと「医薬分業は患者にとってのメリットを十分供与できていない」という結論が出されかねないという点で、質的変化といえるものだ。
この視点は2年経過した2018年度調剤報酬改定にも持ち越されており,2018年3月4日に開催された厚生労働省の平成30年度診療報酬改定説明会の「調剤の部」の冒頭で、「患者にメリットがあるサービス、そのエビデンスの構築を含めて検討していく必要がある」といった発言が説明者の浦課長補佐からなされていることからも明らかだ。
これに対して現場での取り組みはどうであろうか。各地の薬局や薬剤師のみなさんがいろいろな工夫をして取り組まれ、それらの報告もなされているが、「患者にメリット」という点、特に当初の規制改革会議でいわれた「コストに見合った」という観点で見ると十分とは言えない状況ではないだろうか。
筆者達は薬剤師ではなく、薬学的な観点からこれらの取り組みを評価する立場にはないが、経営の支援に携ってきたもので「顧客視点」、「患者視点」という目線では多くの取り組みの支援を進めてきている。そういう立場で現場の取り組みを鑑みると顧客のメリットを提示する「価値提案」という視点が抜けているのではないかという懸念を持ち始めた。
この「価値提案」とは、マーケティングで使用される言葉であるが、現場でやり取りをさせていただく中で、医療の世界では「アウトカム」という言葉に置き換えたほうが現場の皆さんには伝わりやすいと感じている。この「アウトカム」を明確に意識して取り組むことこそ、この「かかりつけ薬剤師・薬局機能」の本質が生かされるものだと考えている。このような問題意識から、2016 年10 月・11 月に日本大学の亀井美和子教授と「かかりつけ薬剤師サービスの本質を深めるために」というセミナーを福岡・大阪・東京で開催をさせていただき、その時の経験も踏まえ本書は執筆された。
本書では、第1章を「かかりつけ薬剤師・薬局機能提起の背景」と題し、「かかりつけ薬剤師・薬局機能」が提起されるようになった経緯を再確認し、2018年度改定とのつながりを記した。
第2章「かかりつけ薬剤師・薬局機能の本質とは?」では、その点数上の要件、この2年間の取り組み推移を踏まえたうえで、その求められる本質についての考察を深めている。第3章「かかりつけ薬剤師・薬局機能推進の成功のポイントとは?」では、第2章の考察を念頭にその実現のヒントとなる、アウトカムの創出を実験的取り組みと現場での事例を紹介。
第4章「地域に根差した選ばれる薬局になるために…今後に向けて」では、それらの取り組みも踏まえ、「かかりつけ薬剤師・薬局機能」の本質をより深めていくための今後の課題を提起している。
本書が、「患者本位の医薬分業」の実現を「アウトカムの創出」により前に進めることを目指す保険薬局・ドラッグストアで働く人々の一助になることを期待する。
2018年5月
久保 隆