荒木 隆一先生(市立敦賀病院薬剤部長)
薬剤師に限らず、医療に携わる者にとって添付文書は最も大切な文書である。その添付文書を見事に解説したのが本書である。まさに待ちに待った本がやってきたというのがこの本を読み終えた感想である。
20章からなる本書は、どこから読んでも読みやすく出来ている。各章の冒頭は、われわれが日常感じている素朴な疑問や押さえておくべきポイントに始まり、詳細な解説が展開されている。それぞれの項目について歴史的経緯や取り巻く背景などが、図や表とともにわかりやすく表現されている。
また、最新のキーワードがコラムとして取り上げられており、理解を助けている。読み進めるうちに幾度となくうなずき、なるほどと納得させられた。著者の知識の豊富さと、きめ細やかな解説に脱帽である。
「薬は他の一般商材と異なり、その物に価値があるだけでなく、薬のもつ特性に関する情報に価値がある」と本書で述べられているが、まさにそのとおりであり、その基礎から応用までのすべてを本書で学ぶことができる。そしてその知識はきっと臨床で活かせるであろう。
医薬品情報室の職員はもちろん、臨床現場で活躍する薬剤師、また教育者や薬学生にもお勧めの良書である。
宮崎 長一郎先生〔(有)宮﨑薬局〕
薬剤師になってよく言われたのは、「添付文書を読め」である。日常的には「添付文書にはなんて書いてあるの」だったり、しまいには「添付文書に記載がないから、あら困った」なんて添付文書を巡って薬局内で言葉が交わされることが多々ある。では、添付文書はどのような経過で作られているのかと問われると、顎に手を当てて、うーむと唸ることになる。
「薬剤師のくせにボーっと生きてんじゃねぇよ」と怒られそうだが、添付文書は薬とともにそこにあるものとの認識で薬剤師は日々仕事をしている。ただ、添付文書の個々の項目に関して、詳細に解説をしてくれている書籍は実はなかったのが現実である。
本書は、改めて「添付文書」の薬機法上の位置づけから、全体を俯瞰しつつ、各項目ごとの意味や意義を丁寧に解説してくれた書籍である。役所が設定した文書は面白くなく、ワクワク感がない。添付文書はその典型といえる。新薬には研究者の発見までのドラマがあり、それが成果となって論文化され、製品となって、上市されていく。その結果として、エッセンスだけを抽出して、記載したものが添付文書であり、無味乾燥にならざるをえない。その解説を書くとなるとさまざまな工夫と筆力と情熱がないとできない仕事である。
野村氏はこの難題に情熱を傾けて、添付文書を活用する薬剤師に向けて、丁寧に解説している。薬価基準収載医薬品コードの数字の意味や各種日付の意味などはなかなか解説してあるものがない。また、副作用が掲載されるまでのプロセスも詳細に記述されており、現場の薬剤師として利用する際の背景として役立つ情報となっている。
添付文書に関する項目ごとの記載の根拠を知ったうえで活用するためには、薬局に備えておきたい1冊である。
後藤 伸之先生(福井大学医学部附属病院 教授・薬剤部長)
医薬品医療機器等法の第52条には、「医薬品は、これに添附する文書又はその容器若しくは被包に(中略)次に掲げる事項が記載されていなければならない。」と規定されています。そうすると「添附文書」とするのが正しいのか? 調べてみると、独立して用いる場合には厚生労働省でも「添付文書」が一般的のようです。この違いは時代の違いで、昔は「添附」、現在では「添付」。いまでも「添附」を使っているのは「古い人間」かもしれません。
医療用医薬品添付文書は、「くすりの身上書」のようなものです。その薬を初めて処方する場合には、必ず目を通しておくべきです。「なぜこう書いてあるのか?」、「多くの情報がぎっしりと詰め込まれていて見づらい!」と疑問に思ったことはありませんか? ですが、添付文書は「何がどこに記載されているか」、「どのようなルールや考えの下に作られているのか」など一度コツをつかんでしまえば、重要項目を拾い読みすることも難しくはありません。
本書は、添付文書の読み方のコツについて、概要から始まり、添付文書の各項目を一つひとつ取り上げ、その特徴や具体的な例を示しながら「なぜ」、「どのような根拠で」をわかりやすく解説されています。
解説・コラムには、添付文書以外の情報源や根拠となる法規の内容なども充実しており、本書を活用することにより医薬品情報学の知識や考え方が系統的に身につき、知識が格段にアップすると思います。添付文書を正しく読むことは、その医薬品を正しく理解して医薬品の適正使用を実践する医療関係者にぜひとも勧めたい必携の一冊です。また、巻末には薬学教育モデル・コアカリキュラムとの対応表も掲載されており、薬学教育において最適の資料といえるでしょう。
赤沢 学先生(明治薬科大学公衆衛生・疫学研究室 教授)
薬は単なる化合物ではなく、情報と一緒になって初めて患者の薬物治療に役立つ。このとき、薬剤師が薬の情報を得るために参考にするのが添付文書である。臨床現場で活躍する薬剤師にとって不可欠な情報源であるため、使う立場として、どんな情報がどこに記載されているかは十分理解しているだろう。しかし、ではその情報が、どのように収集され、どのような根拠でまとめられているのかをよく知らない薬剤師も多いのではないか。
本書の著者は、厚生労働省、PMDA、くすりの適正使用協議会という、行政や企業の立場で薬の安全性情報に深く関わってきた医薬品情報のエキスパートである。医薬品開発、承認審査、市販後調査など、薬のライフサイクルにあわせて、どのような情報が得られ、評価・分析されて、最終的に医療現場で役立つ情報にまとめられるかを、薬の情報を「つくる」立場で具体的な事例を多く用いて説明している。
薬剤師の仕事は、行政や企業が協力して作った情報(添付文書など)を最大限活用して、医師と協力しながら患者の薬物治療を適切に行うことである。それに加えて、医療者の立場で、自らが必要とする情報を作り上げていく役割、つまり「育薬」への貢献も今後はますます重要になってくる。そのためにも、添付文書がどのような情報や根拠をもとに作成・改訂されているのかを知ることで、その情報を正しく理解できるだけでなく、副作用報告など自らが情報発信していく大切さもわかるのではないだろうか。将来、医療現場で活躍する新人薬剤師や薬学生には、添付文書の裏側を知り、その内容をより深く理解するためにぜひ読んでもらいたい一冊である。
山口 崇臣先生(国立病院機構 南和歌山医療センター副薬剤部長)
本書を読み進めると、実はシンプルでありながら、極めて丹念に国内の添付文書の解説をしていることがわかる。さらにグローバル化されている医薬品の開発から発売後の安全対策までも含めて、著者の培っている知識と広い視野の裏づけによって綴られており、薬剤師としては必読必携の書籍であるといえる。
さて、医薬品の添付文書は医薬品を扱う医療従事者にとって、重要なエビデンスである。しかしながら、臨床現場で働く薬剤師を含めた医療従事者はその教育課程のなかで添付文書を理解して使いこなせるほど、十分にその内容を学んでいるのだろうか。さらに言えば、そもそも添付文書について、適切な成書はこれまであったのだろうか。読み進めるほどにそれを強く認識させてくれる。
本書への直観的な難解難読のイメージとは異なり、丁寧に読み込むと、随所に添付文書の項目の説明のみならず、医薬品に関連する世界規模のルールにまつわる情報も重厚に散りばめられており、著者のてらいのない深い知識に思い至る。
この本は添付文書という名称の公的文書を、ただ単純にそれぞれの医薬品の説明書きとして捉えているのではない。まさに、全人格的に薬事制度へ深い愛情をもった者から、薬に携わるすべての者への推薦状、さらに言えば著者から“添付文書”への恋文であることに気づかされる。
薬剤師として臨床現場で働く者は、いわゆる“薬剤師のお仕事”に薬学生や看護学生、医学生への教育も含まれる場合がある。本書はその際に添付文書の解説本のレベルを超え、そもそもの医薬品に関する基礎のレベルから実践的な内容までが網羅されていることから、教科書として大いに頻用されるべきものである。著者から“薬”への愛情に対する、嫉妬や照れを存分に感じながら、読み込み、使いこなすべき良書である。