臨床力に差がつく
Chapter1 薬物動態のトリビア
第1回 Cockcroft-Gault式の落とし穴
トリビア1 CockcroftとGaultは女性のデータは調べていない!
トリビア2 Cockcroft-Gault式って、何が画期的だったの?
トリビア3 Cockcroft-Gault式の誤差は結構大きい!
トリビア4 添付文書上で同じ減量方式ならCcr 15mL/分とCcr 45mL/分は 同一?
第2回 臨床で使える国試
トリビア1 尿中排泄率とタンパク結合率が同程度でも腎クリアランスが 大きく違う?
トリビア2 忘れていませんか糞便排泄経路!
トリビア3 アジスロマイシンはマクロライド系薬でもCYP3A4阻害作用は ほとんどない!
第3回 逆に考えてみるとわかること
トリビア1 薬物動態を逆に考えてみる!
トリビア2 減量基準を逆に考えてみる!
トリビア3 副作用を逆に考えてみる!
トリビア4 作用する受容体から逆に考えてみる!
トリビア5 逆に考えてはいけないこともある?
第4回 投与部位変われば効果変わる
トリビア1 海外では多くのワクチンで筋注を推奨している!
トリビア2 インスリンを筋注すると吸収は速く、持続時間は短くなる!
トリビア3 G-CSF製剤は静注よりも皮下注が効果的!
トリビア4 抗菌薬に筋注の適応がある理由は?
第5回 抗がん薬の効果指標
トリビア1 カルボプラチンの投与量調節の目的は副作用回避!
トリビア2 免疫チェックポイント阻害薬の効果指標は?
トリビア3 抗がん薬の血中濃度測定法開発がいま熱い!
第6回 ベテランになると忘れてしまうこと
トリビア1 バンコマイシンの効果指標はAUC/MIC !
トリビア2 レボフロキサシンの効果指標はピーク値/MIC ? AUC/MIC ?
トリビア3 薬物代謝が非常に速いultra-rapid metabolizer !
第7回 薬物動態の2歳の壁
トリビア1 成人の異常値も新生児なら正常値?
トリビア2 「小児患者」とひとくくりにしない!
トリビア3 「小児投与量」は2歳以上!
トリビア4 2歳未満は腎機能評価でも注意!
トリビア5 体重あたりのバンコマイシン投与量は新生児と20歳で 大きく変わらない!
トリビア6 「重症の場合」の小児最大投与量は根拠の母集団を確認!
第8回 外国人のように大きい患者
トリビア1 投与量が海外と同じ薬剤が増えている!
トリビア2 患者はネズミみたい? それともゾウみたい?
第9回 薬物クリアランスが大きすぎる!
トリビア1 薬物クリアランスが頭打ちにならない患者がいる!
トリビア2 過大腎排泄(ARC)ではCockcroft-Gault式が あてにならない!
トリビア3 Cockcroft-Gault式はCcr 50mL/分超で誤差が大きくなる!
第10回 胃腸切除患者の薬物吸収
トリビア1 胃切除でも低用量アスピリンの吸収効率はそんなに変わらない!
トリビア2 短腸症候群ではプラスグレルよりもクロピドグレル?
トリビア3 胃腸切除患者が増加中!
第11回 ECMOで注意
トリビア1 ECMOの静脈脱血-動脈送血は人工心肺、 静脈脱血-静脈送血は人工肺!
トリビア2 ECMOでは抗凝固薬に未分画へパリンを使用する!
トリビア3 ECMOに薬剤が吸着する!
トリビア4 新生児のECMO時は薬剤投与量が2倍にもなるときがある!
トリビア5 挿管患者でもできる吸入療法!
第12回 腹膜透析患者のクリアランス
トリビア1 血液透析と腹膜透析では、残腎機能の影響が大きく違う!
トリビア2 腹膜透析の透析液量は、残腎機能から計算する!
トリビア3 腹膜透析のクリアランスは、腹膜の状態の影響も受ける!
Chapter2 薬剤選択・投与方法のトリビア
第1回 投与量と効果のターニング・ポイント
トリビア1 アスピリンの血小板凝集作用は投与量を増やしても消失しない!
トリビア2 ドパミンが7μg/kg/分を超えたら昇圧作用はノルアドレナリン、 強心作用はドブタミン!
トリビア3 カルベジロールは用量依存的に左室駆出率が改善する!
第2回 周術期に水はどこに向かうのか?
トリビア1 サード・スペースの概念は過去の遺物!
トリビア2 スターリングの仮説も現在では否定的!
トリビア3 新概念のグリコカリックスモデル!
トリビア4 周術期に投与するのは晶質液? 膠質液?
第3回 使われなくなった不整脈の分類表
トリビア1 忘れられたヴォーン・ウィリアムズ分類!
トリビア2 CHADS2スコアの過信は禁物!
トリビア3 シシリアン・ガンビットも臨床現場では劣勢!
トリビア4 シシリアン・ガンビットは薬剤の特徴がわかりやすい!
第4回 正しく使えるのがシンのマクロライダー
トリビア1 肺炎マイコプラズマは50%がマクロライド系薬耐性!
トリビア2 マクロライド系薬は抗菌作用以外にもいろいろな作用がある!
トリビア3 肝クリアランスの測定薬として検討されたことも!
第5回 奥が深いぞエタノール消毒
トリビア1 消毒に最適なエタノール濃度は?
トリビア2 重量%と容量%のどっち?
トリビア3 エタノールはノロウイルスにも意外と有効!
第6回 アドレナリンかノルアドレナリンか
トリビア1 アドレナリンかエピネフリンか?
トリビア2 アドレナリンかノルアドレナリンか?
第7回 モルヒネにまつわるエトセトラ
トリビア1 モルヒネは夢の神?
トリビア2 呼吸抑制が起きるのは眠気の出る投与量の10倍!
トリビア3 オピオイド製剤はどう使い分ける?
第8回 いつもみるけど作用機序がわからない薬
トリビア1 アセトアミノフェンの作用機序は?
トリビア2 アセトアミノフェンは15分で投与終了しないといけない?
トリビア3 β遮断薬の心不全への作用機序もわかっていない!
第9回 高濃度で投与したいとき
トリビア1 中心静脈投与にすることで水分負荷を減らせる!
トリビア2 海外では静脈注射が好まれる!
トリビア3 バンコマイシンは濃度がレッドネック症候群のリスク因子!
トリビア4 浸透圧比が4を超えると静脈炎のリスクとなる!
トリビア5 経腸栄養の濃度を上げると下痢のリスクとなる!
第10回 p<0.05なので有効?
トリビア1 p=0.001なら薬の効果はとても強い?
トリビア2 「p<0.05なら有意差あり」はただの慣習!
トリビア3 薬の費用対効果は質調整生存年(QALYs)で考える!
第11回 ガイドラインはルールというより心得
トリビア1 ガイドラインの弱い推奨と弱い非推奨には大差ないことも!
トリビア2 「日本人なら日本版」、「国際的ガイドラインが上」は間違い!
Chapter 3 副作用のトリビア
第1回 プラセボとノセボ
トリビア1 プラセボ効果が判明したのは20世紀になってから!
トリビア2 説明の仕方でプラセボ効果には違いが現れる!
トリビア3 プラセボ効果のある試験とない試験がある!
トリビア4 ノセボ効果にも価格で違いがでる!
第2回 あれっ? アレルギー?
トリビア1 サバアレルギーは、本当に「サバ」にアレルギー?
トリビア2 大豆アレルギーに大豆油は禁忌?
トリビア3 β -ラクタム系薬でアレルギーが発生したら、 すべてのβ -ラクタム系薬は禁忌?
第3回 副作用の濡れ衣
トリビア1 肝障害の濡れ衣!
トリビア2 悪性高熱の濡れ衣!
トリビア3 防腐剤アレルギーの濡れ衣!
第4回 中毒の奥の手
トリビア1 ベンゾジアゼピン系薬中毒はフルマゼニルで即拮抗?
トリビア2 アセトアミノフェン過量内服でのAST、ALT上昇は 1~3日かかる!
トリビア3 脂質製剤で組織中の薬剤を血液中に引き戻せる!
トリビア4 安全データシート(SDS)でIFにない致死量・中毒量がわかる!
第5回 有名だけど、紛らわしい副作用
トリビア1 SJSかTENか?
トリビア2 悪性高熱/悪性症候群かセロトニン症候群か?
トリビア3 アカシジアかジスキネジアか?
第6回 相互作用でよくみるセント・ジョンズ・ワートって何?
トリビア1 そういえばジョンって誰?
トリビア2 そもそも何に使うの?
トリビア3 相互作用はどの程度?
第7回 徐々に増減(減感作と離脱症状)
トリビア1 アスピリンの減感作療法は6時間でできる!
トリビア2 アスピリン喘息はアスピリン以外でも起こる!
トリビア3 ステロイドを高用量2週間以上投与で漸減を検討する!
豆知識クイズ
Q1 数秒であれば、落ちた食べ物でも食べられるという3秒ルール (海外では5秒ルール)は嘘?
Q2 フルニトラゼパムを海外旅行に携帯できる?
Q3 虚弱な高齢者に抗がん薬を使うとき、副作用予防に役立つスコアリングは?
Q4 虚弱(フレイル)な高齢者の薬物動態は?
Q5 NOAC(Novel Oral Anti Coagulants)から DOAC(Direct Oral Anti Coagulants)によび方が変わった理由は?
Q6 抗体製剤の命名方法は?
Q7 インタビューフォームは英語でinterview form?
Q8 酔っ払ったときに、トイレで尿をするとアルコールが排泄されるから酔いが覚める?
Q9 プレドニゾロンを内服しているとコルチゾールの検査結果が高くなる?
Q10 クロルプロマジンの適応にある人工冬眠って何?
Q11 薬剤師の起源は?
Q12 抗生物質に抗がん薬は含まれる?
Q13 ドキソルビシン、マイトマイシンに殺菌作用はある?
Q14 未分画ヘパリンを分画すると何になる?
Q15 がんは、なぜCancerとよぶ?
Q16 日本薬局方にあるブドウ酒の効果・効能は?
Q17 蜂の毒に小便(アンモニア)は効果がある?
Q18 大黄?虫丸という漢方薬の構成成分は?
Q19 竜骨は恐竜の化石?
Q20 柳の樹皮から鎮痛成分をとりだし、アスピリン開発のきっかけを作ったのはエドワード・ストーン? それともエドモンド・ストーン?
Q21 スルホンアミドから開発された薬は?
Q22 狭心症になったアルフレッド・ノーベルが処方されたのは?
Q23 葛根湯がテーマの落語とは?
Q24 ワルファリンはもともと何に使っていた?
Q25 GLP-1受容体作動薬は何から発見された?
Q26 ニチニチソウから発見された抗がん薬は?
Q27 京都の老舗米屋でみつかった青カビからとられた化合物から作られた薬は?
Q28 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療薬として期待されたけれど、有効な結果がでなかった薬は?
山本康太先生(福井赤十字病院薬剤部)
本書は臨床を考えるうえでどのような点に疑問をもてばもてば良いか? そのエッセンスが濃縮されている、まさに「臨床力に差がつく」一冊と言っても過言ではない。毎日の業務に追われて勉強をする暇もない薬剤師にこそ読んでほしい。
〔薬局、73:3088、2022より〕
はじめに
さて、皆さんは参考書をどのような場面で読んでいるでしょうか? 「仕事の本は職場でしか読みたくない」という方もいるでしょう。なかには「睡眠薬や枕として使用している」なんてこともあるかもしれません。日常業務で頭をフル回転させているのに、休み時間もフル回転というのでは、少し疲れてしまいます。そこで、本書は肩肘を張らない「一歩、斜め上の知識」を主軸としています。臨床現場のなかでたまに発生する、ふとした疑問への答えや、「こんなことは教科書には書いてなかった」という豆知識や雑学をぎゅっと圧縮してみました。新人はもちろんベテランにとっても、役立ったり、役立たないけれども知らなかったりする知識をピックアップしています。
実際、「一歩、上の専門家」になるということは大変です。専門家のなかでも、さらに高度な知識を身に付けなければ臨床現場のなかでは埋もれて存在感を失ってしまいます。でも、「一歩、斜め上の専門家」は、他の専門家が知らない部分をフォローできますし、ともすれば「薬マニア」や「薬オタク」のような、名誉なのか不名誉なのかわからない称号を手にすることもできるでしょう。
本書には生涯で数回しか使用しないような無駄知識も入っています。しかし、哲学者であるデカルトが「我思う。ゆえに我あり」という名言を残したように「すべての事象を疑って、疑って、それでも最後に残ったものが真実である」というその姿勢は医療者にとって必要であり、かの有名なシャーロック・ホームズの推理方法でもあります。固定観念を疑って、既成観念は裏付けを調べ、時にはホームズのように推理力を働かせて薬に向き合うと、いままで見えていなかったさまざまなことが映し出されてきます。
例えば、Cockcroft-Gault予測式の計算結果を小数点第一位まで信用していたり、「小児投与量」という言葉で2歳と14歳を同一視する、という場面を臨床現場でみかけますが、元文献を振り返ったり薬物動態を学んでから考えなおしてみると、それらは正しい行為ではないかもしれません。ガイドラインなども、それぞれの項目を一つひとつ丁寧に考察し、時には脇道にもそれながら考えていくと、応用が利くようになります。
また、薬を作るためには長い年月と研究者の努力があったのですから、それぞれの薬の特色にも目を向けないと、薬への興味が湧いてきません。せっかく他の薬よりも良いところがあるのに「何とか阻害薬」などのように、一括りにまとめて覚えてしまったのでは、使い分けができなくなります。
本書がこのようなこれまでの考え方を壊す一石となることができましたら、もくろみとしては大成功です。少なくとも、本書は睡眠薬や枕には向いていません。
2022年9月
名古屋大学医学部附属病院
薬剤部副薬剤部長 宮川泰宏
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