薬物治療のよくある落とし穴
Introduction
「しくじり処方提案」をしないために──いまこそ必要な薬学的視点に基づく症例へのアプローチを身につけよう!
第1章 よくある疾患・病態でのしくじり
Case 1循環器疾患
eCCr50mL/分以上なので、どのDOACも通常用量で投与できます?
Case 2精神疾患
BZP誘導体の副作用では長時間型から中間型か短時間型に変更しましょう?
Case 3代謝性疾患
既往に心不全はないのでピオグリタゾンを投与しても大丈夫です?
Case 4呼吸器疾患
患者さんが「使い方は完全に理解できている」と言っているので問題ありません?
Case 5泌尿器疾患
前立腺肥大症に対する抗コリン薬の使用は尿閉リスクが高まるので中止しましょう?
Case 6消化器疾患
錠剤がうまく飲み込めない患者でのメサラジン錠の粉砕は割線があるから可能です?
Case 7皮膚疾患
デブリードマン後も補水性の基剤を継続しましょう?
Case 8がん(抗がん薬治療)
カペシタビンの投与量は添付文書の記載どおりなので大丈夫です?
Case 9がん(緩和ケア)
オピオイド換算表で同換算でのオピオイドスイッチングで大丈夫です?
Case 10 感染症(抗菌薬)
腎機能は悪くないのでタゾバクタム/ピペラシリンにバンコマイシンを併用しても大丈夫です?
Case 11感染症(抗真菌薬)
肝機能正常だからボリコナゾールを静注しても大丈夫です?
第2章 よくある患者背景・シチュエーションでのしくじり
Case 12腎機能評価
eGFRに加えて念のためCCrも確認してみましょう?
Case 13救急・集中治療
起因菌不明なのでピペラシリン/タゾバクタムで広域にカバーしましょう?
Case 14周術期
肥大型心筋症患者のβ遮断薬は術前に中止しましょう?
Case 15低栄養患者
低栄養患者なので初期から高エネルギーを投与しましょう?
Case 16小児・新生児
(3.7kgの児に)800mLの補液で溶解して投与してください?
Case 17妊娠・授乳婦
添付文書では有益性投与なので大丈夫です?
Case 18高齢者
服薬管理を患者の妻が行うよう、教育的指導を行います?
Case 19医薬品情報業務
ビーフリード®はカルペリチド注と同一静脈ラインから投与しても大丈夫です?
川添哲嗣先生(徳島文理大学香川薬学部)
新人薬剤師はしくじる事なく良い処方提案をするために。ベテラン薬剤師もさらに良い処方提案をしつつ、新人教育のためにも。そして薬学部教員は薬学生への教育のために。つまり本書は、全薬剤師が活用できる内容がぎっしり詰まった珠玉の一冊と言えます。
〔薬局、 2022年11月号、 p32より〕
安藤基純先生(愛知学院大学薬学部臨床薬学講座)
処方提案でしくじらないよう、新人薬剤師が学ぶべき書であることは間違いないが、ベテラン薬剤師にとっても、自己研鑽あるいは若手薬剤師の指導のために、必要な知識を学べる書であり、薬剤師の経験年数に関係なくお勧めしたい一冊である。また、薬剤師の自己研鑽としてのみならず、薬剤師・実務実習生・学部学生等の教育用資材としてもお勧めしたい。
〔日本病院薬剤師会雑誌、58:1439、2022より〕
しくじり症例に学ぼう!
近年、病院や保険薬局の薬剤師業務には従来よりもいっそう臨床的な視点や判断が求められるようになっています。そのため、これまでの大学での薬物治療教育の拡充によって、新人薬剤師は薬物治療の知識を従来よりも多く学んだ状態で医療現場に進出できるようになりました。しかしながら、実際に現場へ出たときに「自分は何ができるのか?」、「何をするべきか?」という悩みに直面し、努力したわりには薬物治療に十分関われず、不完全燃焼になってしまうことは少なくないと思います。そうならないためには、早い段階から多職種とスムーズに連携するためのコミュニケーション能力と、薬剤師の視点での薬物治療の合理的な評価・判断能力を養うことが必要です。そして、これらの能力や視点を身につけるための最善の方法は、症例報告ベースの教育の反復訓練です。
現在では、適切な薬物治療の選択はエビデンスに基づいて議論する(evidence based medicine;EBM)という考え方が広く受け入れられています。しかし、EBM学習を行う際には、仮想あるいは理想の平均的患者集団に基づく薬物治療の評価と議論で満足してはいけません。治療を受けるのは、しばしば平均的ではない患者です。そのため、目の前の患者の特性を見極め、適切な情報源から必要な情報を能動的に収集し、そうして得た情報を患者に適応できるか吟味し、患者の病態生理、使用する薬剤の薬理作用や薬物動態を考慮して治療に至る論理を組み立て、それを支持する臨床データ、検査値、臨床経過によって他の医療従事者に理解を得る、という日常的な薬物治療への貢献能力を磨く必要があります。
本書では、このような臨床薬剤師の能力を学ぶため、各疾病領域に精通した薬剤師の方々にチャンピオン症例ではなく、実際に臨床現場でよくある「しくじり症例」を提示いただき、そこから薬物治療を管理する際に必要な専門的知識や考え方を解説していただきました。本書を通じて、一人でも多くの薬剤師が高い専門性を有し、臨床的で実践的な業務に携わっていけるようになれば大変嬉しく思います。
東邦大学医療センター大森病院薬剤部/東邦大学薬学部臨床薬学研究室
花井雄貴
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