徳田安春(群星沖縄臨床研修センター センター長)
薬物療法が発展し、ポリファーマシーが増えているなかで、薬の副作用のケースが増えています。水戸市の急性期病院で評者らが行った研究では、救急室からの高齢患者の入院の原因の5%は薬の副作用のケースでした。関西で有名な総合内科系の勉強会で登場するケースの約20%は薬の副作用のケースでした。このような背景のなか、さまざまな病状の原因が薬の副作用であることを常に疑う状況になっています。病棟や救急室などで、薬剤師さんがチーム医療のメンバーとして常に参加することが多くなった現場では、薬の副作用についての意見を求められる場面が多くなっていると思います。
そんななか、本書が登場しました。病棟や救急外来などで医療チームのメンバーとして活躍する薬剤師の皆様にお勧めの本です。
薬の副作用が原因となる病態に特化した臨床推論の考え方について、総論的な解説と、実際にあったケースに対する具体的な推論の行い方をやさしく解説する本です。総論では、有害事象と副作用との違い、副作用のタイプ分類、薬物相互作用などについて臨床現場でよく遭遇する薬の例を挙げながら解説されています。このうち薬物相互作用の発現機構では、薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用の違いについてわかりやすく説明されています。薬力学的相互作用は、薬物の体内動態には変化がないものの、受容体などの作用部位での相互作用によって効果の増強や減弱が起こる場合とされています。ここで評者がさらに追加したい点は、臨床的に同一の症候として現れるさまざまな機序に作用することによって効果が増強する場合もよくあるということです。同一の受容体をお互いに刺激するようなものではありませんが、これは臨床的によく経験するケースであり、有名なグッドマン・ギルマンの教科書にも記載されているので、これも薬力学的相互作用と呼んでもよいと考えています。
実践編では、実際に遭遇したケースについてのリアルタイム的な展開が行われており、薬の副作用が疑われるケースでの具体的な臨床推論の方法を学習できるよう工夫されています。評者が水戸の急性期病院で行った研究でも、薬の副作用ケースで関連する薬剤の種類は特徴的な分布があり、これらは世界的な研究でもほぼ同じようなパターンを見ています。抗凝固薬や非ステロイド消炎鎮痛薬、化学療法薬、抗菌薬、抗精神病薬などです。本書ではそのような代表的な薬剤を取り扱っており、臨床現場で大変役に立つと考えます。
臨床推論では、患者の臨床情報を正確に集め、疫学的情報に加え、緊急性や重篤度なども考慮して、確率を考えていきます。ここで、薬の副作用を考える場合は、その起こり方のパターンについて臨床推論でのロジックが必要となります。本書を読むことによってそのロジックが学習できます。薬剤師はもちろんのこと、医師や研修医、医学生にも役に立つ、お勧めしたい好著です。
林 昌洋(虎の門病院 薬剤部長・治験事務局長)
チーム医療に参加し薬の専門職として臨床に勤務する薬剤師には、患者の薬物療法に責任をもち最大限の効果と安全性を提供できるよう薬学的な処方設計や副作用モニタリングを実践することが求められている。
お一人おひとりの薬物療法について、ベネフィット・リスクバランスを最適化するためには、患者と医師が期待する治療効果が得られていると同時に、副作用が患者の生命や健康、QOLに及ぼすリスクが許容範囲内であることを薬学的に評価し、懸念があればリスク最小化の方策を立案する必要がある。
しかし、臨床経験の浅い薬剤師にとっては、副作用モニタリングといわれても“言うは易く行うは難し”と感じる場面も少なくないのではないだろうか。
薬剤を投与中に起こる有害事象のうち、合理的な関連があり因果関係が否定できないものが副作用と定義されている。この合理的な関連を薬学的に評価するためには、良質の医薬品情報と有害事象に関連した個々の患者の臨床情報が必要である。
本書は、この合理的な関連と因果関係を薬学的に評価し、推論するトレーニングを可能とする書籍である。
第1章において副作用の考え方の基本知識が示され、続く第2章では副作用を3ステップで推論する思考法に沿って、実際に経験した事例に基づき薬剤師・医師から解説されている。ステップ1では『被疑薬が原因である確からしさ』を医薬品情報に基づき評価し、ステップ2では『疾患など被疑薬以外が原因である確からしさ』を臨床経過に基づき評価し、ステップ3では総合的な判断を行って、副作用については処方提案や安全対策の立案を行う過程が紙上で体験できる構成となっている。
本書の執筆・編纂に関わったすべての薬剤師・医師の皆さんのご努力に敬意を表したい。
患者の期待に応え副作用リスクから患者を守る薬学的患者ケアを実践したいと考える薬剤師にとって、その精度と品質を向上させる助けとなる書籍であり、ぜひご活用いただきたい。
梅田 恵(昭和大学保健医療学部看護学科 教授)
薬物療法はどんどん進化し、長生きができたり、苦痛な症状と付き合いやすくなったりと、その恩恵は計り知れない。しかし、そのためか、薬剤についてのトラブルも増えているように思う。
有害事象について、薬剤性なのか病状の進行なのかのアセスメント(臨床推論)とともに、薬剤師や医師との話し合いが求められる場面が増えている。薬剤の恩恵を長く持続するためには、薬剤が本当に悪者なのか、適切な薬剤の使用ができていなかったのではないかなどなど、看護師といえども考える能力は必須となってきた。
症状マネジメントにおいて、その人の体験している症状を導き出すことは、看護の重要な役割である。その症状を捉えるとき、薬剤についての知識は推論の幅を広げるが、無知は不適切なバイアスのもととなり、推論を狂わせてしまうだろう。本書の第1章「副作用の考え方のキホン」は、職種を問わず必須の内容である。薬剤については学習してきたつもりであったが、知らない内容も含まれ、改めてキホンを押さえることができた。また、本書の目玉である第2章の各Caseにまとめられた思考のプロセスは、納得の内容で、面白くどんどん読み進めることができた。思考の訓練に最適ではないだろうか。
起こっていることの推論を、看護の思考も交えて導き出すことができれば、もっと早く効果的に効率的に対策につなぐことができるだろう。薬剤の恩恵を長くもたらすことができるチームの一員に、看護師も加わりたいものだ。そのためには努力が必要である。本書を使った勉強会などの企画はいかがだろうか。