2024.12.05

【学会レポート】第63回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会中国四国支部学術大会

【学会レポート】第63回日本薬学会

 第63回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会中国四国支部学術大会が11月1617の両日就実大学(岡山市中区)で開催。
 3団体の関わる大会とあって、幅広いテーマでシンポジウムや一般演題などが設けられ薬剤師・薬学の未来に向け薬局・病院・アカデミアそれぞれの立場から活発な意見が交わされた。

 

 

救急医療は薬剤師の手で一歩上のステージへ

 シンポジウム「救急外来から始まる繋げる薬剤師業務」では、座長の吉川博氏(広島大学病院薬剤部)がさまざまなデータを示しながら、薬剤師が救急医療に関わる意義を説いた。

 吉川氏は救急医療の現状について、「救急搬送人員の推移を重症度でみると、10年前と比較して重症はあまり増えておらず、中等症が増えている」とし、中核病院がより重症度の高い患者に注力できるように施策がとられていると説明。そのうえで、救急の入院患者のうちお薬手帳を持参しているのは38%にとどまることや、二次救急外来で薬歴を把握するスピード・正確性において薬剤師が非薬剤師よりも優れていること、診療情報提供書で薬歴を網羅できていたのはわずか21%であることなどを示すデータを挙げ、救急医療での薬剤師の活躍に期待を寄せた。

傷病程度別の搬送人員と構成比の5年ごとの推移

(総務省:「令和5年版 救急・救助の現況」の公表、令和6年1月26日より引用)

 一方で、日本病院薬剤師会が800施設を対象に行ったアンケート結果によると、約40%の施設で薬剤師が救急外来の現場に関与しているが、その多くがオンコールでの対応であり、常駐は少ない。この現状について吉川氏は、救急外来に薬剤師が関わるうえでマンパワー不足などがハードルとなっているとしながらも、「今後さまざまな施設で救急外来のニーズが増えることが予想される」と指摘。日病薬が日本臨床救急医学会と共同でまとめている「救急外来における薬剤師業務の進め方」を活用するなどして、積極的に貢献していくべきだと訴えた。

ー 薬学的視点で気管挿管を回避


 シンポジストの松山祐氏(倉敷中央病院薬剤部)は薬剤師が救急医療に貢献している実際を自身の関わった症例により示した。
提示された90代女性の症例は気管支炎による呼吸不全で救急搬送された。SpO2は91%と低値で薬剤はジスチグミンとランソプラゾールを服用中。
喀痰が絶えず生じる状態で意識朦朧呼吸不全もみられ医師は気管挿管も不可避と考えていた。

 この症例に対し松山氏は発汗流涎気道分泌過多縮瞳などの症状が認められたことからジスチグミンによるコリン作動性クリーゼの可能性を指摘。
 コリンエステラーゼ値を計測してもらったところその数値から疑いがいっそう強まったためアトロピンの投与を提案しその結果気管挿管を免れることができた。この症例などを踏まえ松山氏は薬剤師が救急の現場に関わることで医師・看護師の業務負担に貢献できると述べ「早期に薬剤師が関わることでより早い診断につながる場合がある」「本来なら不要であるはずの治療を行うことを予防できる」と必要性を強調した。



持参薬鑑別は処方見直しのチャンス

 一般演題やポスター発表では、病院や薬局がそれぞれの抱える問題解決すべく取り組んでいる、さまざまな工夫を披露。初日午後の一般演題では、重井医学研究所附属病院薬剤部から、薬剤師による持参薬鑑別が医薬品適正使用につながった事例が報告された。

 同院では、薬剤師が持参薬継続処方の代行入力を行っている。56歳男性の症例では、入院時の持参薬はすべて継続処方となっていたが、持参薬鑑別を行った薬剤師が推定クレアチニンクリアランス(CCr)値を算出したところ10.79mL/minと低いことが判明。持参薬にデュロキセチン塩酸塩カプセル(腎機能低下時は禁忌)が含まれていたため、患者に聴き取りを行ったところ、同薬は糖尿病性神経障害に対し約10年飲んでいるものの、現在では症状を感じていないことが明らかになり、医師への報告を経て処方中止につながった。

 また、別の症例では、高齢女性の持参薬がやはり全て継続となったが、推定CCr値14.0 mL/minと腎機能低下が疑われた。脱水による一時的なクレアチニン値上昇も否定できないものの、カリウム値上昇があったことや、体重30kg台と小柄な高齢女性であることから、薬剤師が医師に相談し、持参薬に含まれていたエサキセレノンが中止されることになった。同院では2023年1月~2024年3月で持参薬に関する処方提案は14件あり、その全例が受け入れられたという。入院時の初回処方で問題点が発見されるケースは多く、薬剤師による代行入力が処方を見直すチャンスとなっているそうだ。


ー 薬剤師のカンファ参加で処方支援増


 初日のポスター発表では岡山市立市民病院薬剤部が、早期離床チーム(early mobilization team;EMT)のカンファレンスに薬剤師が関わった成果を紹介。EMT立ち上げ前後のプレアボイド報告件数などを比較し、集中治療への薬学的介入に貢献している現状を報告した。

 同院では2020年に多職種で構成されるEMTを設立、集中治療室に入室した全患者を対象にカンファレンスを開いている。ポスターでは、EMT立ち上げ前後(2018年4~7月と2024年4~7月)のプレアボイドの報告件数やその内容などがデータで示された。それによると、2018年は49件だったプレアボイド報告件数は2024年には83件に増加。報告内容は「薬物治療効果の向上」が28件から69件にまで増え、また、報告薬剤のうち最も多かったのはDIC薬から鎮静薬に代わるなどの変化がみられた。特に「病態に合わせた処方支援」の介入件数は6倍に大きく増加。カンファレンスでの問題点の共有が即時の治療方針決定や処方提案につながったとし、薬剤師によるカンファレンス参加の成果を指摘した。

岡山市立市民病院のEMT設立前後のプレアボイド報告の変化

(岡山市立市民病院の発表「早期離床チームカンファレンスへの薬剤師参画がプレアボイド報告に与える影響」をもとに作成)


ー 薬局のフォローアップでピロリ菌除菌治療をサポート


 2日目午前の一般演題では、そうごう薬局新倉敷店の三宅里奈氏から、電話によるフォローアップ(FU)を通じピロリ菌除菌治療に貢献している実際が紹介された。ピロリ菌除菌治療では、除菌薬の服薬遵守を徹底することはもちろん、除菌されたことを確認する検査で偽陰性を示す薬剤があるため、それらを使用しないように注意する必要がある。同店では、主な処方箋応需先である胃腸科からのピロリ菌除菌の処方が多いため、患者への電話連絡を行うことで治療をサポートしているという。

 同胃腸科では、ピロリ菌が除菌されたのを確認するために主に尿素呼気試験が使われているが、抗生剤、プロトンポンプ阻害薬、ソファルコン、ビスマス製剤、エカベトナトリウムといった薬剤はピロリ菌に対し静菌作用をもつため、試験の2週間前から中止しないと偽陰性を示すおそれがある。そこで同店では2020年4月より、除菌薬が処方された患者に電話でのFUを行い、投与1週間後には“除菌薬をきちんと服薬できているか”、尿素呼気試験の2週間前には“偽陰性を示す薬剤を使用していないか”を確認。2回のFUを行った患者は2023年10月までの3年半で330名を数え、そのうち6名で中止すべき薬剤の使用が判明し、検査結果が偽陰性となるのを防ぐことができた。

 具体的には、風邪で他院を受診して抗菌薬が処方されたり、定期内服のエソメプラゾールを中止し忘れていたりするケースなどがFUで見つかり、医師に報告して検査が延期されることになった。三宅氏は取り組みの手応えを述べる一方、電話がつながらない場合もある点などを現時点での課題として指摘。次のステップとして「ピロリ菌除菌中を示すカードを渡し、他院受診時に出してもらうようお願いしている」と、さらなる発展への意気込みを見せた。

まとめ

 今回の日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会中国四国支部学術大会では、最新の業界動向や、薬剤師としての新たな可能性を感じられる貴重な情報が数多く共有されました。
 このような場で得られる知識は、日々の業務や患者さんへの対応にも大いに役立つでしょう。


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