2025.04.10

【Webエッセイ】新入社員への祝辞

新入社員への祝辞

webエッセイの番外編として、4月入職の薬剤師の方に向けて書籍『誰も教えてくれなかった実践薬学管理』のなかからショートエッセイ「僕の薬剤師論」の一部を転載してお送りします。これから皆さんはどんな薬剤師になりたいですか?

 新入社員の皆さん、ご入社おめでとうございます。ようこそ、アップル薬局へ。代表取締役の山本です。数ある薬局のなかからアップル薬局を選んでいただいた、そのご縁に感謝しています。

 さて、薬剤師の免許があれば、皆さんの就職先は、活躍の場は多岐にわたっていたはずです。病院、薬局、製薬企業、医薬品卸、保健所などなど。ただ、どんな職種で働こうと薬剤師に必要な視点があるのですが、わかりますか? それは“薬学的視点”です。それを忘れて、ただ薬を取りそろえて投薬するだけならば、そのフィールドは他職種に奪われて当然ですし、薬学的視点のない相談業務などは「ミニドクター」といったシニカルな言葉すら生んでいます。薬剤師として当たり前のことを当たり前にやる。つまりそれは、“薬学的視点を忘れない”でいることなんですね。

 そして、もう一つ忘れてはいけないことがあって、僕たちが相手にするのは人間だ、ということです。人間には心が、感情があります。これを忘れると患者さんの役に立つことなんてできませんし、ましてや“薬物療法の専門家”なんて到底なれません。それでは“薬の専門家”にすぎません。でも、決して対人業務だけが大切といっているわけではないんです。

薬剤師業務の第一番に書かれているのは、紛れもなく「調剤」なのだ。調剤業務が質的に不十分な薬剤師は、患者のニーズに耐えられる薬剤師として成長を遂げられるのであろうか。私は違うと思う。ヒトに近づけば近づくほど、薬剤師はモノ、すなわち薬に関する知識が求められると、私は確証をもってお伝えしたい。

-石井伊都子:特集にあたって.調剤と情報、28:7、2022

 これに僕も完全に同意します。薬剤師が薬に関する専門的な知識を身につけていないと、あなたは“あなたの患者さん”を助けることができません。この点を踏まえたうえで、これから、同僚との、患者さんとの関係を通して、薬剤師としてのあなたを確立すべく、努力を続けてください。それがあなたと患者さんとの信頼の第一歩になるはずです。

 最後に。薬局を訪れる患者のほとんどは人生の諸先輩方です。失礼のないように。接遇のことだけをいっているわけではありません。目上の方に療養上のアドバイスをするにあたって、まずは個人の資質を磨いてください。それが人としての礼儀だと僕は思います。品のない人間の言葉が重みをもって相手に伝わることなんてまずありません。そしてじつは、そのために薬剤師手当が存在します。薬剤師手当はあなたの薬剤師というライセンスそのものに支給されているわけではありません。薬剤師という仕事をしていくために必要だから与えられる手当なんです。

 その用途は、参考書の購入や学会への参加費といった薬学的なものだけに留まりません。人格を磨くためにも使ってください。映画でも、美術館でも、読書でも何でも構いません。そういった努力や、もちろん薬剤師という仕事を通して、立派な人間になってください。急ぐ必要はありません。でも、忘れないでください。自分自身の人生を疎かにしている人間が他人の人生をなんとかしてあげたい、なんて思えるはずがないということを。薬剤師は、薬学という手段を用いて、患者さんの人生をより良いものにしていく仕事であるということを。難しいことをたくさんいいましたが、今日の話を実感できる日が来ることを願っています。

山本 雄一郎(やまもと ゆういちろう)

1998年熊本大学薬学部卒。製薬会社でMRとして勤務した後、株式会社ファルマウニオン(本社:福岡市城南区)の前身である有限会社アップル薬局に入社。2014年1月から日経ドラッグインフォメーションOnlineコラム「薬局にソクラテスがやってきた」を連載(全100回)。2017年3月『薬局で使える実践薬学』(日経BP社)、2022年10月『誰も教えてくれなかった実践薬学管理』(じほう)、2024年3月『ソクラテスが贈る若手薬剤師研修テキスト~薬局薬剤師として輝くために~』(kindle)、2024年9月『誰も教えてくれなかった実践薬歴 改訂版』(じほう)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授、同年8月より有限会社アップル薬局の代表取締役に就任。2024年1月より合同会社ファーマエディタ代表社員。有限会社アップル薬局の吸収合併に伴い、2025年1月より株式会社ファルマウニオンの代表取締役に就任。

@kumamotoPh usan_appleph

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