2025.03.26

【INTERVIEW】無印良品が仕掛ける、地域活性化と健康増進支援の新拠点「まちの保健室」

 株式会社良品計画では、全国4店舗の「無印良品」で「まちの保健室」の活動を行っています。まちの保健室には薬剤師が常駐しており、健康相談を行ったり、漢方煎じ薬や和漢茶を販売したりしているそう。2025年3月27日には5店舗目の「無印良品 酒田」(山形県)のオープンを控えるなか、活動の内容や目的についてお話を伺ってきました。


――「まちの保健室」の活動はどのような経緯で始まったのでしょうか。


 2021年に「無印良品 直江津」(新潟県)に開設されたことが始まりです。もとより良品計画では、各店舗で地域の方と繋がりを作り、地域の活性化や課題解決に取り組みたいと考えていました。そのなかで、新型コロナウイルス感染症の流行により世の中が塞がっている様子をみて「地域の方が健やかな暮らしを送るために何か役に立てないか」「日々の体の状態を把握したり、気軽に健康に関して相談できたりする、保健室のような場所があるといいのでは?」というアイデアが出てきたことがきっかけになりました。

 無印良品は医療を提供する場ではありませんが、生活者と繋がることができます。買い物に来られた方に「ちょっと聞いていこう」と健康に関するご相談をいただくなかで、まちの保健室が入り口となり、薬局や医療機関と連携しながら活動できればよいと考えております。そのため、まちの保健室には薬局を併設している店舗もあります。

無印良品 直江津(新潟県)

――「まちの保健室」ではどのような取り組みをされているのでしょうか。


 健康相談はもちろん、測定器を用いて血圧や身長・体重などの測定を行えるようにしています。さらに、漢方やヨガをはじめとしたさまざまなテーマでイベントが行われています。各店舗が独自に、地域との繋がりのなかで企画をしているので、ベビーマッサージ、温活……と内容は多岐にわたります。「出張まちの保健室」と題し、地域のイベントに薬剤師が出て行き、血圧や体組成の測定をしながら相談に乗ったり、お茶を試飲していただいたりもしています。

 また、クオール薬局が併設されている「まちの保健室」が2カ所ある(無印良品 直江津、広島アルパーク)ので、共同して健康相談カフェや、こどもの薬剤師体験なども展開しています。

――各店舗で充実した活動を行われているのですね。


 現在では前述のような活動をしていますが、こういった形になるまでの道のりは、順風満帆というわけではありませんでした。「無印良品」という小売業を営むなかで、健康を前面に出すのは難しい面もありました。店舗に測定器が置いてあるだけでも「何か買わされるのでは?」という印象を抱く方もいらっしゃいました。

 また健康相談となると、いらっしゃる方のプライバシーは守らなければなりません。そのため測定器の周りに壁を立てるなどしていたのですが、中で何が行われているのか伝わりづらい空間設計になってしまっていました。そのため「気軽に来てほしい」というコンセプトが伝わらず、まちの保健室を利用してもらうまでのハードルが上がってしまった、ということもありました。

――そういった課題は、どうやって解決されたのでしょうか。


 「無印良品 ゆめテラス祇園」(広島県)では、まちの保健室を改装しました。現在では、四方八方からアプローチできるよう開放されたスペースになっています。改装後は、プライバシーに気を配りつつも、ただ単に机が置いてあり、休憩できるようなスペースも作りました。その甲斐あって、若い人から高齢の方まで測定器を気軽に使っていただけるようになりました。測定中の方のまわりで、一緒にいらしたご家族が休むなか、相談員(薬剤師や登録販売者)が歩き回って声をかけるような光景がみられるようになったのです。

 小売業として場所を提供するだけではなく、憩いの場にしたいと「まちの保健室」を作ってきましたので、理想に近い状態を実現できているように感じます。良品計画としては、店舗を地域のコミュニティセンターにしたいと考えているなか、まちの保健室はそれを後押しする一つの要素になれると、現在は確信しています。

無印良品ゆめテラス祇園(広島県)

――店舗の改装により、まちの保健室を訪れるハードルを下げることができたのですね。


 もちろん、工夫を凝らしたのは空間設計だけではありません。薬剤師のスタッフが白衣を着ていることで、悩みがないと話せないという圧迫感を感じている方が多くいらっしゃいました。そのためユニフォームの色を無印良品らしく変更し、生地もリネンにしたことで、お客様からお声がけいただくハードルを下げられました。

 こういった工夫の甲斐あってか、「まちの保健室」で行われるイベントで参加者同士の繋がりも形成されています。例えば前述の無印良品 ゆめテラス祇園近辺は、新しい世代が流入してきており、こどもが多い地域です。イベントに参加することで保護者同士のネットワークが生まれ、いまでは子ども服交換会などのイベントも行われています。

――地域に密着した活動を行われているんですね。


 良品計画では企業理念に“「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた商品、サービス、店舗、活動を通じて「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献する”を掲げています。繰り返すようですが、店舗が各地のコミュニティセンターの役割を担うことを目指すなかで、地域の課題解決にも取り組みたいと考えているのです。そのため、行政の方々との連携も行っています。例えば広島市とは包括連携協定を結んでいて、そのなかには健康に資する項目もあります。

――行政とも連携して活動を行われているんですね!


 はい。ただし、そういった関係性は一朝一夕では構築されません。まちの保健室だけではなく、店舗全体として取り組むなかで作られてきたものです。行政も、地域の方にいろいろと啓発したいという思いがあっても、アプローチの仕方に困っている場合もあります。そんななかで我々は、地域の方が集まる場を提供できます。そういったニーズが合致して、行政と連携したイベントを行っているのです。今では、健康診断の受付や問診会場として、まちの保健室を使っていただくこともあります。

――最後に、今後の展望について教えていただけますか。


 一つ一つの活動の「濃さ」を大切にしたいため、急激に店舗を増やそうという気持ちはありません。まずは今ある店舗で、着実に地域に根差した活動をしていくことによって、地域の方々に貢献し、コミュニティづくりの一助になりたいと思っています。

 また、現在無印良品では7,000以上の商品を取り扱っていますが、そのなかに、健康に寄り添うような商品も出てきています。まちの保健室では漢方薬を販売していますが、今後も漢方を増やしていく、という考えではなく、漢方と無印良品の商品の間を繋ぐようなものの開発を目指し、試行錯誤している状況です。

 もちろん、今の活動がベストだと思っているわけではありませんから、半年後は活動内容が変わっているかもしれません。引き続き、地域のニーズにどう対応できるかを模索していきたいと考えています。

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