患者と向き合い続ける薬剤師を支える、ナレッジベースの魅力とは?

2025年5月に発刊した『薬剤師のためのナレッジベース 2nd Edition』。本書は千葉大学医学部附属病院薬剤部の知識と経験を詰め込んだ1冊ですが、実は、同薬剤部以外にも本書と繋がりの深い先生がいらっしゃいます。それは、山梨大学医学部附属病院薬剤部長の鈴木貴明先生です。
初版の制作時、千葉大学医学部附属病院薬剤部の副薬剤部長でいらっしゃった鈴木先生は、石井伊都子先生とともに企画の立ち上げから書籍制作にご尽力いただきました。そんな鈴木先生に、担当編集のNが初版の思い出や書籍の魅力などについて伺いました。
――『薬剤師のためのナレッジベース 2nd Edition』を手にされたとき、率直にどんな感想を持たれましたか?
「ついに、新しくなったんだ!」と感動しました。基本的な見た目は踏襲されているので、懐かしさもありつつ、色が青から緑に変わったので新鮮さも感じました。総じて、とにかく嬉しかったという気持ちでしたね。
実はこの薬剤部に赴任してきた当初、部員から「この本を使っています!」といった声をかけてもらうことがありました。自分が制作した本が名刺代わりになるんだという驚きを覚えましたし、大変貴重な経験をさせていただいたなと、あらためて感じました。
名前のとおり、“ベース”となる情報が盛り込まれた本になるように。
――初版では企画立ち上げからご尽力いただきました。初版の編集者として、特にこだわった部分などがありましたら教えてください。
疾患はなるべく広く網羅したい一方で、コンパクトに1つにまとめたいという想いもありました。そのバランスをどう取るか、といったところは特にこだわりましたね。
「広く網羅する」という点については、幸いなことに、千葉大学病院にはあらゆる診療科があり、ほぼすべての疾患領域を網羅していましたので、主要な疾患と領域について思い浮かべやすかったです。あとは、ほかの書籍も参考にしながら押さえるべき情報に漏れがないように、そして、薬剤師にとっての基本領域はなるべく含まれるように、リストアップしながら確認しました。
また、やっぱり現場で使える本にしたいという想いも強かったですね。薬のことだけ解説している本はたくさんあるので、「普段、薬剤師がどういう情報を現場で使っているか」ということを常に思い浮かべながら、処方監査やモニタリング、服薬指導といった流れを意識しました。そして、現場で無理なく使えるよう、できるだけ必要な情報に絞って、コンパクトにすることも意識して作りました。
――では、少しお聞きしづらいですが、苦労した点はどうでしょうか?
初版でも、薬剤部総出といっても過言ではない40名程度で制作しました。これだけの人数ですので、執筆陣には経験豊富なベテラン薬剤師だけでなく、比較的若い薬剤師までもが入ってくることになります。そうすると、経験の差がどうしても出てきてしまいます。経験がないから悪いということを言いたいわけではなく、若い薬剤師とは綿密にコンタクトを取り、確認を入れながら執筆を進めてもらいました。適宜フォローを入れながら制作するというのは大変でしたね。
また、内容のレベル感に差が出ないよう、すべての原稿をチェックしました。書籍名のとおり、「ベース(基本)となる情報はこれなんだ!」というものに抜けがないよう、執筆された内容が読者にとって十分な情報となっているかどうか、55疾患分すべてチェックしたのは苦労しましたね。本当に大変でした(笑)。
「新人教育用に購入した!」という声が多かったのも印象的でした。
――初版では読者から大変多くの反響をいただきました。その中で印象に残った読者の声・エピソードなどがありましたらお聞かせください。
初版ではたくさんの読者はがきをいただきました。これだけでも大変ありがたいのですが、多くの方から「ほかの人にも薦めたい!」といった声をいただいたのが特に印象的でした。もちろん、「見やすい」「内容がいい」といったお褒めの言葉もいただき大変光栄だったのですが、人に薦めたいということは、何かもう1つ上のランクの評価をいただいている感じがして、本当に嬉しかったですね。
あとは、新人教育用に購入したという声が多かったのも印象的でした。私たちとしては、身近なところに置いて、業務の際にパパッと調べるために使ってもらえたらいいなと考えて作ったのですが、想定していなかった使われ方をしていることに驚きと嬉しさがありました。
この本は、業務の流れに沿った形でまとめることにこだわっていますので、そういった実践的な面が評価につながっていったのではないかと思いました。
知識の取得と使い方が、無理なく身につけられる本だと思います。
――薬剤部長として日々、新人・若手薬剤師をご指導されているかと思います。そんな鈴木先生からみた「若手が現場で直面しやすい課題や悩み」がありましたら、具体的にお聞かせください。
「自分の知識をどうやって活用するか」といった点で悩んでいることが多いように感じています。勉強すれば知識は身につけられますし、技術だって私たち先輩が教えられますが、実際に患者さんの目の前に行って、自分の得た知識をもとに説明して理解してもらう、いわゆるコミュニケーションをとるということは、「知識をただ伝える」とは全く別の話になります。自分が持っている知識を、思ったように患者さんに伝えられていない、活用できていないということに悩む若手薬剤師はたくさんみてきましたね。
――「知識をどうやって活用するか」といった課題について、本書はどう役に立つでしょうか?
本書は情報の整理の仕方が一貫しています。まず疾患の知識があって、薬の知識、それこそ同効薬なども含めてまとめて頭に入るようになっています。だからこそ、本書は調剤するとき、患者さんに薬を説明するとき、服用後の副作用モニタリングのときといった、あらゆる薬剤師業務の流れに沿った形で使えるんですよね。
この本で勉強していただくと、仕事の上で身につけなくてはいけない知識と、その知識を使う力というのが無理なく身につきやすいんじゃないかなと思います。
患者さんのための知識・情報って、結局一緒なのだと思います。
――初版は当初、病院薬剤師向けの書籍として発刊いたしましたが、ふたを開けてみると病院薬剤師はもとより、大変多くの薬局薬剤師の方にご愛読いただく形となりました。この結果をどう感じられていますか?
正直、私もここまで薬局薬剤師の先生に買っていただけるとは思っていませんでした(笑)。
ただ、言われてみれば確かに、この本って別に病院薬剤師に特化した内容でもないんですよね。例えば、薬局で患者さんに服薬指導をしているところでこの本が使えないかと言われれば問題なく使えますし、患者さんに副作用情報について伝えるとき、逆に患者さんから副作用の話を聞くときでもしっかりと使える本だと思います。
そう考えると、この本が両方の立場の薬剤師に選んでいただけているということは、存外不思議なことではないのだと思います。
――最後に、読者にメッセージをお願いいたします。
薬剤師は今、特に対人業務に重点を置かれるようになってきています。薬局薬剤師と病院薬剤師の業務は全然違うものにみえることもありますが、患者さんと向き合い、患者さんのために薬剤師として関わっていくときに求められる知識や情報は、先にも申し上げた通り結局一緒なのだと考えています。ぜひこの本を使って、業務の流れに沿った知識の取得、そして患者さんに貢献していっていただければ嬉しいです。
■ 山梨大学医学部附属病院薬剤部のご紹介
――先生、本日はありがとうございました。せっかくですので、最後に薬剤部のご紹介をお願いいたします。
そうですね。ひと言で表すと、「伸びしろのある薬剤部」でしょうか。Nさんも感じられたかと思いますが、当薬剤部は比較的若いスタッフが多いのが特徴です。
ちょうど今月(2025年8月)から院外処方箋に検査値を掲載するようになりました。病院内での調整や交渉などの準備期間に時間はかかりましたが、ようやく実現することができました。石井伊都子先生のいらっしゃる千葉大学病院からするとまだまだですが、とにかく今までやってこなかったことにどんどんチャレンジしていきたいと思っていますし、そういったチャレンジができるような雰囲気になっていると感じています。
今ちょうど、飛躍的に伸び始めたような、そういう活気のある、非常にいい雰囲気の薬剤部です。

薬剤師のためのナレッジベース 2nd Edition
定価5,720円(本体5,200円+税10%)
薬剤師の定番書、5年ぶりの改訂版!
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